海外で剣道はどのように普及してきたのでしょう。ヨーロッパに限った話になってしまうのですが、私がここ数年で見聞きしてきた普及の様子についてまとめます。
目次
①現地で剣道教室を開く
ある国での剣道の始まりは、誰かが剣道道場・教室を開くこと。
オランダの剣道は、1937年12月にロッテルダムに新中田道場が開かれたのが始まりだそうです。1940年の空襲で何もかもが燃え、ドイツの占領下にありながらも1941年にはハーグで再度道場を開きます。
今、戦争中のウクライナも剣道を続けていますが、こういう話を聞くと海外の人たちの剣道に対する情熱は本当にすごいなと思います…。オランダ人の友人たち曰く、この新中田道場がオランダで一番古いのですが、オランダ剣道連盟とはちょっと距離があるそう。
現地の先生
海外剣道の普及、発展には現地の先生たちの存在が欠かせません。
どんな先生がいるかというと…
長期にわたって関わる先生
- 海外移住した日本人の先生
- 現地人の先生
- 青年海外協力隊
「海外移住した日本人の先生」は、海外駐在から現地採用に切り替えた人もいれば、結婚を機に現地に住んだ人もいます。「慣れない地で、剣道に本当に助けられた。だから剣道に恩返ししたい」という話もよく聞きます。海外移住して剣道普及をするくらいなので、良い意味で個性が大爆発していて、面白い先生ばかりです。
「現地人の先生」は、いわゆる外国人剣士。母国で剣道を教わったり、日本に武者修行にくる方もいます。国際武道大学や筑波大学、国士舘大学などで学び、母国に戻って普及活動に勤しんでいます。
また、青年海外協力隊の存在も欠かせません。ハンガリーの剣道は、青年海外協力隊として現地に派遣された国際武道大学一期生の先生のご尽力で大きく発展しました。
短期で関わる先生
- 駐在員
- 留学生
- ノマド的な生活をしている経営者(長期・短期両方)
駐在員として現地の剣道に関わり、すっかりハマってしまう人・ナショナルチームのコーチに迎えられる方もいます。文化も価値観も違うので、剣道普及をするときに現地人と心の距離ができてしまうことや、バトルが勃発することもあるのですが、一方でコーチになってほしい!と熱烈オファーを受ける方もいます。そういう先生は、剣道の実力はもちろん、とにかく人柄が良いです(バトル勃発した人の人柄が悪いわけではないです)。
あとは、若い留学生の存在も大きいです。高段者の先生のお話もとても勉強になるのですが、現地の若い子たちは、歳が近い日本人が来て一緒に稽古をしたり、剣道について教えてくれることが楽しいようです。
最後は、「ノマド的な生活をしている強い経営者」。これも個性大爆発系の日本人なのですが、会社経営をする傍らで世界を飛び回り剣道普及をしてます。すごいww 「剣道も勉強も文武両道で」と、学生の頃からどちらもめちゃくちゃ頑張ってきた人が多いです。英語もペラペラ。
こういった方々のご尽力で現地の剣道は発展していき「近くに道場があったから」と、日本人みたいな理由で始め、ヨーロッパの大きな大会で入賞した人もいます。
②大学剣道部がきっかけで交流が生まれる
海外移住した先生の中には、体育系の大学でバリバリ剣道をやってきた方もいらっしゃいます。例えば、国士舘大学剣道部出身の先生がフランスにいらっしゃるそうです。
その先生の同級生の繋がりで、夏に日本の高校に剣道留学をしているケースも。この剣道留学がきっかけで結婚した方もいます。
国士舘大学、国際武道大学、日本体育大学、筑波大学などなど、体育学部で剣道を専門に学んだ方々は、日本での剣道指導だけではなく世界に飛び出し、同級生たちとのネットワークを生かして剣道普及しているんだ…と最近知って感動しました。
③日本への武者修行
武者修行旅行
海外のセミナーで知り合った日本のトップ選手や日本の先生、母国の先生たちのつながりをたどって、高校剣道部、大学剣道部、実業団、現地の道場、警察などで稽古してます。
今年の夏もたくさんのヨーロッパ剣士が日本に来ているのですが、ビザが許す限り日本に滞在してずっと剣道している人もいます。
剣道留学
国際武道大学、筑波大学などに留学する外国人剣士もちらほら。オランダのジュニアの子達も「武大に留学したい!」と言ってます。
④ジャパンフェスティバルなどに参加して普及する
オランダに移住してから初めて知ったのですが、「ジャパンフェスティバル」なるものがあって、そこでデモンストレーションを行うことがあります。
このフェスティバルは主要な町ごとに開催されます。このイベントに限らず、デモンストレーションを行うことで、現地の人たちは地道に剣道人口を増やそうとしてます。
⑤学校に外部講師として赴く
オランダでは、子どもが自分に合ったスポーツを見つけるために外部講師を招く学校があるようです。ある剣道道場はこの制度を利用して新規の子ども会員を増やしていました。フランスも、日本人学校に先生が剣道を教えにくることもあるようで、それがきっかけで始めた子もいました。
大人から始める人の中には「大学で知った」という人も。イギリスなんかは大学剣道部があって、大会もあるそうです!
⑥映画やYouTubeの影響
スターウォーズが放映される年は剣道人口が増えるらしいです笑
でも、実際の剣道とは違うから「イメージと違った」ってなっちゃうこともあるかもしれませんね。
YouTubeで全日本選手権の動画を見て「めちゃくちゃかっこいい!」と感動して剣道始めた少年もいました。指導者がいなくて、アマゾンの奥地でYouTubeを見ながら稽古している人たちもいるそうな…。そういう話を聞くと、すぐに反応はなくても地道に動画などで発信をすることもすごく大事だなぁなんて思います。
⑦日本から講師の先生の派遣
国によっては全剣連から八段の先生が派遣されて、セミナーを開催してくださいます。剣道の技術に関することであったり、審判セミナーであったり。
ある国剣士と個人的に仲良くなって毎年セミナーを開催している先生もいらっしゃいます。
海外剣士の方々は、日本人の私でもできていないことができていたり、剣道に対する理解が深いなぁと思うことがあるのですが、八段の先生方が質の高い剣道を教えてくださっているからだと思います。セミナーで教わったことを、本当によく覚えていて忘れずに稽古に取り入れているんですよね…。
⑧海外展開する防具屋さん
海外に行ったら防具や竹刀はどうするの?!と、よく聞かれるのですが、日本の剣道具メーカーで海外展開しているところもあれば、現地で会社を立ち上げた方もいます。日本みたいに気軽に店舗に足を運ぶことはできないので、基本はオンラインショッピング。試合やセミナーの時にお店を出店しててそこで買うこともあります。
とにかくみんな剣道が大好き
普及に大切なことは、剣道が好きな気持ちだと彼らを見てると思います。本当に剣道好きなんですよね。誰かの「大好き」な気持ちやひたむきさって、見ている側の心にもポジティブな変化をくれると思います。
ヨーロッパに限って言えば、多くの国は第二次世界大戦後に剣道普及が始まりました。最初は環境も整っていなくて大変だったと思います。価値観も違う中、現地で普及活動をしてきた先生方のご苦労は計り知れません。また、剣道を始めたものの、日本よりも継続率はずっと低いから、たった一人で剣道を続けてきたって若者もたくさんいると思います。「べつにまり子に何かしてもらわなくてもいいし」って言われちゃうかもしれないけど、彼らの真摯な姿を見てると、何か力になりたいなぁって思います。