幼児・小学生の習い事「剣道」で身につくこととは?日本と海外との違いも


7月25日発売の雑誌『剣道時代 9月号』の特集「少年剣道の現場シリーズ⑦中学・高校の継続率を伸ばせ(2)」に記事を執筆しました。
日本・海外の少年剣道に携わる保護者の皆様にアンケートを実施した上で作成した調査記事です。ご協力いただきました皆様、ありがとうございます!
以下に雑誌から記事を転載いたします。


「生涯剣道」と言われる剣道は、ライフステージによってその役割が異なり、幼少期の子どもにとっては、感性を高めるための「習いごと」としての側面が強いと言えるでしょう。
日本と海外、10カ国の保護者を対象にアンケートを行ったところ、多くの回答が寄せられました。
ピアノや習字、野球、サッカーなど、数多くの習いごとがあるなかで、剣道の独自の特性や魅力について考察します。

「生涯剣道」が家族のコミュニケーションのきっかけに

まずは、剣道を始める理由についてです。日本では「保護者の希望」が1位、次いで「本人の意思」が2位。回答のなかには、「長男の影響」「父がやっているのを見てやりたいと言い出しました。」「母親(私)が小学3年から高校生までやっていたから。子供と一緒に稽古できたら楽しいかな。と思って。」という声もありました。

子供の祖父が剣道をしていたので、一緒にやろうと勧められた事が大きなきっかけになりました。」という回答もあり、親・兄弟だけではなく祖父と孫が一緒に稽古をしているケースもあるようです。

子供がきっかけで剣道を習い始める大人初心者の方も少なくありません。
「生涯剣道」は剣道という競技の大きな特徴のひとつ。剣道を通して家族のコミュニケーションも深められる点は大きな魅力と言えるでしょう。

稽古が家族の交流のきっかけにも
(photo by 無料写真素材 写真AC)

海外は憧れやスターウォーズがきっかけのケースも

海外では剣道はマイナー競技です。それゆえ本人からやりたいと言い出すケースが多いのかもしれません。スターウォーズや漫画、アニメなどがきっかけで始める子が多いと聞きますが、剣道のデモストレーションを見たり、体験して「楽しそうだったから」という人も一定数いるようです。
「礼儀作法を身につけてほしい」という日本的な理由で始める人は少ないとの声もあります。ベルギーで指導をしている先生によると「日本の剣道ではこういう礼儀があるんですね」と言われることもあるようです。

精神面での成長、体力面での成長が大きな魅力。「自信がついて積極的になった」との声も

剣道を始めてよかったこと、身についたことは、「稽古を通した成長」が1位、次いで「先輩、後輩、同学年などとの交友関係」、「健康的になった、体力がついた」と続きました。

「剣道を始める前に比べ、先生の話を聞けるようになったり、順を待つということや周りの様子を見るといったことが出来るようになったと思います」といった意見も保護者の方から寄せられています。

剣道を続けることで身につくこととしてよく挙がるのが内面の成長です。礼儀作法はもちろんのこと、積極性が身につく、自信がついたとの声もよく聞きます。いじめられていた子供が自信をつけ、強くなったと実感する保護者の方もいるようです。

また、現代では「大きな声を出していいよ」と言われることはほとんどないのではないでしょうか。騒ぐと怒られることが多いはずです。この点で「大きな気合を出すように」と教育される剣道はストレス解消の場になっているとも言えます。

「人前に出ることをあまり好まない子だったのですが、剣道の稽古で日頃から声を出すよう教えて頂いているおかげで、小学校の運動会で応援団長を務めることが出来、大きな声が出せていました。」といったコメントが寄せられました。

また、自由回答ではこんな声も挙がりました。「喘息持ちですが、剣道の稽古でだんだん体力が付き、発作の回数が減りました。」「姿勢が悪く、腰や足が痛いと言って月1で整体に通っていたが、剣道に通い始めてから、足腰が痛いと言わなくなり、整体に通わなくなった。」「剣道のおかげで、体の筋肉や体力もつき、足が早くなる等、運動神経も良くなった」。稽古を重ねれば、身体も確実に強くなる点は大きなメリットでしょう。

海外は「自己成長」と「倫理観を得た」が1位。「内気な子供に有益」との声も

では、海外の場合はどうでしょう。剣道を習っていて良かったこととして、1位に「自己成長」と「倫理観が身についたこと」が挙がりました。
自由回答のなかには「規律や自信が身についた。特にシャイな子供には有益」との意見も。日本と同じく、大きな声を出し闘争することで内気な子供にとっては自分の殻を破るきっかけになるのかもしれません。

あるオランダ人の保護者の方から「娘には内緒だけど、彼女がこっそり教えてくれたんだ。剣道をやってる理由は、思いっきり声を出しても怒られないからだって!」と言われたこともあります。

ヨーロッパの少年剣士たち (Photo by KENDOFAM)

他にも、「自分の強みを見つけ弱さと向き合う機会にもなる」「誠実さを学ぶことができた」など内面の成長に対するコメントが寄せられました。
友情が深まることや、日本と同じく「ファミリー・アクティビティ」としての魅力を感じる人も多異様です。

国に関わらず、課題は「モチベーションの維持」

海外・日本、どちらのアンケートでもみられた課題感は「モチベーションの維持」。剣道を続けるにあたっては、どうモチベーションを維持するかが大きな鍵になります。

課題や悩みに関する自由回答には下記のような意見が寄せられました。
「体格や体力だけでは通用しない年齢になった際に他の道場の子らと比べて稽古量での差が明確になり、負けても仕方ない的な諦観を持ち始めた事。勉強との両立など忙しい現代の小学生の典型としてそこそこでいい的な感覚が芽生えてしまいつつある。」

約45年の歴史を持つ東京の強豪道場 昭島中央剣友会の理事長兼指導責任者の三浦先生剣道時代2016年6月号の特集「少年剣道は、いま・・・」で下記のように語りました。

「試合が多いとAチームばかりに注目が集まりがちですが、「試合に出れないことはたいした話ではないんだ」という雰囲気にしないと、Aチーム以外の子たちのモチベーションがどんどん下がってしまいます。とにかく「勝つことがすべてではないんだよ」と、時折そういう意味を含めた言葉を交えて話しています。」
参照:剣道時代2016年6月号「少年剣道は、いま・・・」

剣道時代の他の少年剣道の特集記事にも三浦先生のインタビューがあったのですが、ほんとに素敵な先生で個人的にとっても憧れてます!

ヨーロッパ・ジュニアの試合風景
(photo by 佐藤まり子)

“やりきった”、”頑張った”思い出をつくる工夫

特に都内の小学生の場合は、中学受験を機に剣道を離れてしまうケースが少なくありません。他の習い事や勉強との両立など、現代の小学生の忙しさを指摘する声も聞きます。

発足10年でまたたく間に実績を上げ、今や全国クラスの道場である山梨健心館 館長の清野先生は下記のような工夫をしているそうです。

「8月や9月などの時期になると「辞めたい」と言い出すんですが、親御さんを含めて「3月までは続けましょう、3月になったら私の方でやめていいよというから、3月までは続けてください」と説得します。・・・(中略)話し合いをした後、親御さんにもご了解をいただいて説得し、周りの仲間たちにも「3月までがんばったから」と、花道をつくって見送りをさせます。ですから、逃げてやめる子は一人もいません。」
参照:剣道時代2016年6月号「少年剣道は、いま・・・」

前述したアンケートの回答にもありましたが、ライフステージの変化によって剣道を再開するケースも少なくアリアkey戦。たとえ一度剣道から離れたとしても、「もう一度始めよう」と思ったときに、こういった指導者の先生方の優しさはきっと背中を押してくれるでしょう。

日本では指導者に対する不満の声も・・・

海外の自由回答にはなく、日本のアンケートの自由回答にのみ寄せられた悩みもありました。残念ながら、指導者に対する不満の声です。
「稀に暴力的な指導者がいることは、剣道の普及・発展に悪い影響を及ぼしていると思う。」
「沢山いる指導者の中には、子供に対しても目に余るような体罰や罵声を浴びせるような感情的かつ理不尽な指導をする方もいる。保護者に対してもパワハラ言動が。それを理由で退会していくお子さんたちもいる。」

実社会に於いても同様のケースが起こっていますが、「自分たちの時代では暴力や体罰は当たり前だった」としても、今の世代にそれが通じるとは限りません。特に、インターネットが爆発的に普及した時代に生まれたミレニアル世代とZ世代は、これまでの世代と大きく価値観が異なるとも言われています。何気なく放った一言が、子供や親の心を剣道から離してしまうかもしれない点には注意が必要でしょう。

子どもの成長のためにーー海外における指導者の願い

海外の場合は、そもそも試合の数が少なく、子供向けに級審査を行わない場所もあります。このため、子供にもっと試合をさせ、級や段を区切りとしてモチベーションにしてあげたいと願う保護者も少なくありません。

子どもの成長の機会を作ってあげたい」とオランダ・ベルギー・ドイツの先生方が企画したのが3カ国連動の交流試合です。それぞれの国で持ち回りで試合を開催することで、年に3回試合を行うことを目的としています。4月には、ベルギーで「子鹿カップ」が開催され、10カ国から173名の少年・少女剣士が集まりました。

当日は地元のTV局も取材に来るなど、プロモーションにも積極的。海外で毎年こういった行事を続けることは非常に難しいのではないでしょうか。指導者の先生方の想いが感じられる大会です。

10カ国から少年少女剣士が集まった「子鹿カップ」
(photo by 佐藤まり子)

剣道を続けた先の姿

また、アンケートではこのような声もありました。「プロリーグがない為、目指す選手の様な存在がいないのでどの様に技量を磨いてきたなど教えにくい。」
剣道のプロといえば警察官ですが、剣道を生業として生きていく選手は一握。しかし、社会人になってからも実業団や道場での稽古を通して剣道を続けることは可能です。

社会で活躍する文化人、芸能人、経営者、漫画家…剣道が本職ではありませんが、続けてきたことが仕事にも良い影響を与えているケースがほとんどです。


ここまで日本・海外、両方の視点から剣道の習い事としての特徴について考察してきました。いずれの回答を見ても精神面・体力面での成長が大きな魅力に感じます。
また、剣道だけに見られる特徴として二世代・三世代で一緒に稽古できる点や礼儀作法が身につく点が挙げられます。様々な世代と交流した経験は社会に出てからも役立つでしょう。

課題は、多くの方が感じているように「モチベーションの維持」。時代が変われば価値観も変わります。子供の声に耳を傾け、その世代に合わせた方法が求められるはずです。親も指導者も、子供の成長を見守りながら、長く剣道に携わる工夫をしていくことが大切なのかもしれません。

これから剣道を始めたい方へ!

この記事のご覧の方のなかには、お子さんやご自身が剣道を始めようか迷っている方もいるのではないでしょうか?剣道に興味を持っていただき、ありがとうございます。剣道を始める場合は、まずは最寄りの道場に足を運んでみるといいと思います。道場によって、合う・合わないがありますので、もし分からないことや不安なことがあったら、こちらのブログにご質問いただいてもいいですし、「いちに会」というサイトに掲示板がありますので、そちらに聞いてみるのもオススメです。

防具屋道具に関しては、最寄りの剣道防具屋さんで購入をします。所属道場の方に聞いてもいいですし、ちょっと防具屋さんに質問しにくいな…と感じた場合は、「ばんとう武道商店」やECサイトの「BUSHIZO」がオススメです。どちらも、お子さんがいらっしゃるお母さんを応援してます。

剣道に関する情報は、YouTubeだとレッツ剣道百秀武道具店のウガ店長Kendo Jidai Internationalがわかりやすくてオススメです。雑誌は「剣道時代」と「剣道日本」があり、どちらも少年剣道から中学生・高校生・大学生・社会人まで幅広いテーマを扱っています。強豪道場の情報や試合分析、技術について詳しくなりたい方にオススメです。


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ABOUTこの記事をかいた人

横浜出身、オランダ在住のフリーライター&Webディレクター。ジャンルを問わないSEOライティングが得意です。ディレクションはLP・採用サイト・企業サイト・オウンドメディア、何でもやります。お仕事のご依頼は[marikoアット1design.jp]もしくはTwitterへ。[ID mariko_cabin442] 最近、剣道五段に受かりました。旅行と読書と寝ることと、漫画が好きです。細かいことを気にしない性格です。