日本文化の一つである剣道。1970年には国際剣道連盟が設立され2015年5月時点での加盟国は57カ国にものぼります。
世界剣道選手権大会は3年に1度開催され、2015年には16回目の大会を日本で迎えました(*1)。
全日本剣道連盟によると、日本における「剣道」有段者登録数は、184万5,243人(その内、女性は54万1,087人)、世界剣道人口の7割以上を日本人が占めており、今後は海外でのさらなる広がりも期待できるでしょう。(※有段者登録者数は2016年12月末日時点)
なかでも、世界剣道連盟への加盟国が32カ国にものぼるヨーロッパは剣道がとても盛んです(*2)。
私が滞在しているオランダにも、15前後の道場があります。オランダの面積は九州と同じくらいなので、けっこうな数の道場があるといえるでしょう。今回は、外国人が剣道に感じる魅力についてご紹介します。
Facebookのグループ「World Kendo Network」でアンケートをとり、162人の外国人剣士が回答してくれました。こちらのアンケート結果のTOP5を元にご紹介していきます。(複数回答可能)
第5位:真剣の演舞に芸術性を感じる、日本剣道形
日本剣道形(にほんけんどうかた)は、剣道における形稽古です。
剣道における礼法、目付、構え、姿勢、呼吸、太刀筋、間合、足さばき…様々な基本動作の習得のために稽古をします。
最も基本的な動作を選んで制定された形であり、竹刀稽古と合わせて体得が必須とされていますが、近年は昇段審査や公開演舞のために稽古される傾向があります。
左右どちらから動くとか、何歩で動くとか、動作とか、細かいところまで所作が決まっていて、個人的にはとても苦手です。全く覚えてません。五段審査が終わった時、先生に「剣道形を見て、落とそうかと思った」とまで言われました。
剣道形の何がいいのか全く分からないので聞いてみたところ、
・「剣道形は、剣道の理念・概念を理解することに役立ちます。防具をつけた稽古でも役立つでしょう。剣道の稽古では真剣を使いません。剣道形を学ぶことで、真剣の稽古を感じ取ることができます。(オランダ人男性)」
・「剣道形の魅力は、リアルな真剣での演舞です。剣道形に魅力を感じ剣道を始める人も多いと思いますが、一度剣道を始めると稽古と試合に目がいってしまいます。私は、真剣の芸術性に魅力を感じます。(アメリカ人男性)」
と、剣道連盟が掲げる理念に賛同する意見や、真剣に魅せられたという意見が寄せられました。
第4位:3歳から90歳まで。生涯続けられる剣道
「Health/exercise」としての剣道も人気です。
剣道には「生涯剣道」という言葉があり、幼児(3歳前後)からお年寄り(90歳前後…)まで幅広い年代の方が、長く続けています。日本で剣道を始めたドイツ人剣士は「お年寄りの先生が競技を続けていることに衝撃を受けた。年をとっても続けられることは大きな魅力」とコメントしていました。
また、「様々なバックグランドを持つ人達が世代を超えてつながっていることが魅力」と答えたアメリカ人も。
たしかに、剣道では老人とは思えない動きをする先生がいらっしゃいます。80歳を過ぎて子供と一緒に素振り1000本する先生も…見ていると「大丈夫?」と正直心配になることもありますが、健康面でも良いようです。
町道場では、分け隔てなく、みんなで子どもを育てようというボランティア精神も強いです。様々な年代が所属する道場は、他に類を見ない地域コミュニティとしても機能しています。
第3位:剣道が持つ、日本人の美意識
剣道には、長い歴史の中で培われてきた文化性があります。
酒井利信さんの『日本剣道の歴史 英訳付き (剣道日本)』によると、闘争技術が文化にまで発展したことは世界的に見ても奇妙な現象だそうです。
剣道は、その技術理論が構築されていく過程で神道や仏教、能楽や茶道といった芸道とも親しく関係性を持ち、文化性を備えるようになりました。
特に日本刀においては、折れず、曲がらず、よく斬れるだけではなく、日本人はこれを綺麗に研ぎます。
優れた武器を研ぎ上げ、世界的に有名な美術品にまで昇華させる点など、日本人の精神性や美意識が垣間見れます。
また、美意識を感じ取るのは日本刀だけではないようです。
「防具、袴、竹刀、所作…侍の動きに美しさを感じる。(アメリカ人男性)」
職人が作る藍染の道着袴や、手刺しの防具、真竹から作られた竹刀、厳しく定められた所作など、モノや動作に美意識が込められています。
第2位:交剣知愛。剣道を通じてお互いを理解する
交剣知愛という言葉をご存知でしょうか。
「剣を交えて”おしむ”を知る」を読まれ、剣道を通じて互いに理解しあい人間的な向上をはかることを教えたことばである。愛はおしむ(惜別)、大切にして手離さないということを意味しており、あの人とはもう一度稽古や試合をしてみたいという気持ちになること、また、そうした気分になれるように稽古や試合をしなさいという教えを説いたことば。
出典:剣道用語辞典
あるオランダ人剣士は、「元々はスポーツを始めるような気持ちで剣道を始めたけど、今は剣友がいることが自分にとっては大きい」と言います。年代、国籍にかかわらず、様々な人と関わり合いながら、人間的にも技術的にも向上できることが剣道の魅力の一つのようです。
第1位:日本人の精神性。心と身体を鍛える稽古
稽古のことを英語では「Keiko」「Training」「Practice」と表現しますが、あるスコットランド人の男性は、”Keiko is not training.“と言いました。全日本剣道連盟のWebサイトには、「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」と記載されています。
スポーツとしてではなく、人間形成の道を理念としているところが剣道の大きな特徴の一つ。
“Keiko is not training.”は、それが理解されているコメントといえるでしょう。
あるベルギー人剣士は、「何かが出来たとしても、また新たな課題が見つかり、謙虚でいられること」が魅力だそうです。
その謙虚さは、剣道の技術向上や身体を鍛えることだけではなく、精神や人格にもあてはまります。
このように、絶え間ない向上の気持ちが生まれることを魅力と捉える方もすくなくありません。
その他:練習後のお酒、”第二道場”
練習が終わった後にお酒を飲むことを剣道家の先生たちは「第二道場」とよんでいます。お酒の席も修行だそうです。第二道場で終わらず、第三道場、第四道場、第五道場まで続くこともあります。休日の昼間から夜まで飲み続けることもあり、酒豪なのかアル中なのかわからないときがあります。
厳しい稽古が終わった後に、先生や仲間とフランクに話せる場所はとても魅力的です。こういった楽しさも外国には伝わっているのだと思います。
この本おすすめです
日本剣道の歴史 英訳付き (剣道日本)
酒井 利信
¥2,160
剣道の歴史を古代からさかのぼり研究した1冊。わかりやすい文体ですが、これ一冊で剣道の歴史や日本人の思想、美意識、文化などを網羅的に理解できます。英訳もついているので、外国人に剣道を紹介したいときにも役立ちます。
英語で説明するのにつかってます
1回25分170円くらいで始められる英語
参照:
(*1)Outline of International Kendo Federation (FIK)
(*2)European FIK Affiliated Organizations