オランダの友人とともに、コロナ前に剣道道場を始めました。もう3年近く前になります。そのころは、Gelderlandplein(ヘルダーランドプレイン)側の体育館で稽古をしていて、私たちが体育館を使用する前の時間は、空手の団体が場所を使用していました。
その時に「国体やインターハイで活躍した若い日本人の男性が稽古をしている」と聞きました。「武道でこんな凄い実績を残した人がオランダに来ているんだ」と、驚いたことをよく覚えています。
数年経った2022年5月、知人に誘われ空手の試合を観に行くことになりました。そこで、成拳空手道場代表の松澤成基先生に初めてお会いしました。
ご実家が空手道場で、物心つく頃には空手が生活の中心にあった松澤先生。いわゆる「空手のエリートコース」を歩んできました。その彼が、なぜ今オランダにいて、海外で空手教室をしているのでしょう。
ご本人が謙虚すぎてなかなかお話を聴き出すことができなかったのですが、成拳空手道場を実際に見学し感じたことや、松澤先生の周りにいる方々から聞いた話をもとに、先生ご自身や成拳空手道場について書き記したいと思います。
オランダでお子さんに日本文化に関わる習い事をさせたい方や、心と身体を鍛えたい大人の方はぜひご覧ください!
武道だからこそ学べる、礼儀と所作事
日本人は、礼儀をとても大切にしています。
武道といえば礼儀、と連想する方もいるかもしれませんね。武道に限らず日本ではスポーツを通じて礼儀もしっかりと躾けていて、「武道だから礼儀正しい」とはもはや言えないかもしれません。
しかし、細かく取り決められた所作や作法は武道独特のもの。道着は単なる運動着(ユニフォーム)ではないし、競技者は特段意識することはなくとも、武道の中には「日本文化」が散りばめられています。
海外に滞在している時だからこそ、武道を学ぶ意義は大いにあると私は考えています。
海外に出ると、少なからず何かを喪失したような気持ちになります。
慣れ親しんだ言語、生活習慣、人間関係…。「喪失感」を感じて鬱状態になってしまう方もいると聞きました。私自身も、オランダ生活で困難を感じることが少なからずありました。そんな時に、助けになったのが剣道です。私の根本である「日本」を思い出させてくれて、支えてくれるものでした。
適応力の高い子どもは、海外で暮らすとその国の文化に良くも悪くも染まりやすいでしょう。日本人の良さみたいなものを失ったり、忘れてしまうのではと心配する親御さんもいるかもしれません。そんなとき、武道を学ぶことで、海外にいながら日本の礼儀作法と美しい所作事を身につけることができるでしょう。
ハーフや現地育ちの日本人たちは、時にアインデンティティ・クライシスに陥りやすいと聞きます。「日本人でも、オランダ人でもない。自分は何人なの?」と、自分が何者なのかわからなくなってしまうのです。そんな時にも、武道は助けになってくれるはずです。
空手で心と身体を鍛える
では、数ある武道の中で空手独特のものは何なのでしょう。組手の試合を見学したのですが、剣道と比べると間合いがとにかく近いと感じました。攻めてくる時は一瞬で間合いに飛び込まれ、蹴りと突きが飛んできます。恐れや惑いに打ち勝たなければできない競技だなと感じました。
この身体活動を通して、間違いなく身体は鍛えられるだろうし、それに伴って心も鍛えられるでしょう。動作が細かく決められた「形」は、アートでもあると感じました。教室に来てい子どもに「構えてみてもらってもいい?」と、聞いたところ、凛々しい顔つきでパッと構えてくれました。「強さ」は子供に、憧れと自信を与えます。細かく決められた形を学ぶことで、美的感覚も磨かれることでしょう。
「技術」と「指導力」を兼ね揃えた稀有な空手道場
剣道しかしてこなかった私の視点に偏ってしまうかもしれないのですが、指導者の「技術」や「実績」と、「指導力」は必ずしも比例しません。松澤先生の優れている点は、このふたつを両立させていることです。
これまでの主な戦績
- 高校選抜大会団体2位
- 国体5年連続出場
- インターハイ出場
- 関東大学体重別大会2位
- 実業団チーム優勝
さらに、ご実家が空手道場を経営していたことで、道場運営のノウハウもお持ちです。物心ついた頃から空手が生活のなかにあり、強豪校で一流の技術を学んだことで、骨の髄まで「空手」が本人に染み付いているはずです。
上記の理由に加え、「オランダで空手教室をやりたい」という純粋な情熱があります。
松澤先生は、子どもの頃から、周りの人に空手を教えたり、社会人になって働いてからも東京の町道場で指導を継続してきたそうです。
若い頃は、自分の競技成績にばかり目がいきがちで、子どもの指導にまで意識が向く人は珍しいと私は思ってます。逆に、子どもが好きでも技術力や指導力が足りないケースもあります。子どもの目線に立って、モチベーションを上げたり、教えることは簡単なことではありません。松澤先生が温和で気さくな人柄だからか、この辺りのバランスも絶妙だと感じました。優しいだけでは、子どもの心を育てることはできないと私は考えています。メリハリをつけた、厳しさと声かけもとても上手な先生です。
松澤先生は、コニシスポーツ代表の小西さんの協力を得て、2020年7月からアムステルダム・アムステルフェーンで成拳空手道場をスタートしました。
オランダで長年、スポーツ教室を運営してきた小西さんは以下のように考えているそうです。
小西さん「日本人はもちろん、現地の方にとっては『日本人がオーガナイズしている日本人の空手道場』という点に魅力を感じていただいています。震災の時など、災害時でもきちんと列を作って並ぶ日本人の国民性に惹かれ、その空気の中で何かを学ばせたいという方が多いようですね。いまは、『真っ直ぐ立って返事ができない』、胸をはって『はい』と返事ができない子どもも増えてきています。そういった点で、武道が果たす役割は大きいと感じます」
さらに、松澤先生は自身の教室だけではなく、他道場のオランダの空手指導者たちから依頼を受け、講習も開催しているそうです。オランダでの空手普及にも、尽力されています。
まだ見ぬ世界を知りたい。成長のため空手と歩む
「空手一色の人生から、よくアムステルダムに来ましたね!」
松澤先生と話すときに、一番最初に思い浮かんだのは、この言葉でした。実家が空手教室で、強豪校で空手を学んだら、普通は警察や警備会社、教員として働くのではないでしょうか。
大学時代に自分の周りにいた方の影響で、鍼灸やマッサージの資格を取ろうと決意した松澤先生は、専門学校に通って国家資格を取得後、リラクゼーションサロンに勤務。その後、縁あってLoople(ループル)に声をかけてもらい、2019年にオランダに移住。
現在は、Loople アムステルダムにて、現地に住む方々の身体のケアを行なっています。
お話を聞いていると、渇望に近い「成長欲」があるように感じました。この枯れない成長への渇望が、オランダでの活動の原動力なのかもしれません。空手の指導一つとっても、ご自身が経験されたことをそのまま子どもたちに課しているのではなく、松澤先生なりに徹底的に考え、アレンジしているようです。仕事も私生活もとにかく活動的で、新しい人・モノとの出会いから学べるだけ学んでいるように見えます。
松澤先生「自分の教えた人たちが強くなって、さらに人が増えて道場が大きくなっていったら最高ですね。最大限能力を高めてあげられるよう、教え方も工夫し研究しています。
僕は小さい頃から人に空手を教えているので、どう教えれば理解してもらえるのか、見つけるのは早い方だと思います。また、『俺たちはこうやってやられてきたんだから、下にも同じことを』というスタイルは好きではありません。それだと現状維持です。僕は良いものは残し変えていくスタイルを好ましく思っています。
そのためにも何が良くて、何が悪いのか知らなければいけません。色々なことを体験し、価値観を知り、全てを空手の成長に生かしていきたいです」
コロナの混乱もヨーロッパは終息を迎え、元の生活に戻りつつあります。コロナ禍で始まった成拳空手道場は、これを拡大の好機と捉え、さらに門下生を募集中です。
気軽な見学も可能とのことですので、ご興味のある方は、コニシスポーツのお問い合わせもしくは、InstagramのDMからぜひご連絡ください!
コニシスポーツ / Instagram
日時:毎週土曜日 16:00-17:00/毎週日曜日 9:30-10:30
場所:NTC DE KEGEL 柔道場 Bovenkerkerweg 81 1187 XC Amstelveen
費用:入会費25€(初回のみ)/週1回40€/月、週2回60€/月
対象:小学生~大人まで