欧州剣道選手権大会(通称ヨーロッパ大会 / EKC)の取材に行くと、毎年プレスには大会のパンフレットが配られます。プレス(Press)とは英語で「報道機関」という意味です。
ヨーロッパ大会には、アフリカや中東、アジア寄りの国々も参加しています。コロナ前は参加42カ国という大所帯の大会でした。
フランスやドイツ、ポーランド、ハンガリーなど歴史も長くて層も厚い国は、選手の他に監督、コーチなどたくさんいるのですが、なかには監督もコーチも選手もたった一人の国もあります。
モルドバという東欧の国からは、ジョージという選手が毎年一人で参加しています。デリゲーションリーダーもマネージャーも選手も全部ジョージ。毎年、モルドバのページを見るたびに、「ジョージはえらいなぁ」と思います。
彼は2018年くらいにオランダに引っ越してきて、普段はオランダのみんなと稽古し、一緒のチームで隣国の大会に出ることもあります。
ある時、ドイツのマインツで開催される試合に一緒に行ったことがあって、オランダで固まって試合を応援していたのですが、その中にジョージがちょこんと座っていたことがあって。試合中だったんですけど、ふと「すごいなぁ」と感じたことをよく覚えています。
異国で剣道ができる場所を探して、稽古を続けて、自分の居場所を作って、一緒に試合まで行くって、本当にすごいことです。もしかしたら本人はそうは思ってないかもしれないけど、めちゃくちゃ大変だと思います…。
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2020年のフレンチオープンの時期には、中東の国からわざわざオランダに短期滞在している選手もいました。フレンチオープンとは、フランスが主催するオープン剣道大会で、ヨーロッパ域内だけではなく日本の大学、韓国、たまにブラジルや北米からも参加がある大規模な大会です。
オランダからフランスまでは、みんなで車で行ったのですが、私は彼が運転する車に乗りました。
「僕の国では三段の僕が一番段位が上で、教えないといけない立場なんだ。でももっと勉強しないといけないってわかってるから、もしできたらオランダに引っ越したいなぁ…」
わざわざオランダに引っ越してくるの?!と、もうびっくりですよ。
その年のフレンチオープンの時期はストームが来ていたので、私たちは早めに予定を切り上げてオランダに戻ったのですが、帰りの車でも「僕の試合どうだった?」と反省会を始めて、本当に熱心だなぁと驚きました。
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毎年、ヨーロッパ大会のパンフレットを見るたびに、一人で参加している国や、出場選手がめちゃくちゃ少ない国の人々に想いを馳せます。きっと、ジョージ達と同じような状況だと思うんです。
たった一人でも、なんとかして上達したい。
母国に仲間が少なくても、好きだから続けたい。
他の国に仲間を探しに行きたい。
そして、上達するために実際に引っ越してきて、稽古を続ける。本当にすごいことだと思います。私は彼らのことを本当に尊敬しています。彼らをみてると、自分ももっと頑張ろうって元気をもらえるし、何より、日本の文化の一つである剣道をこんなに好きになってくれて、一生懸命学ぼうとしてくれてることが嬉しいです。
そうやって彼らが一生懸命取り組んできたことが、その国での普及につながっていくのでしょう。