ここ最近の自分の取材対象の一つに「武道ツーリズム」があります。武道ツーリズムとは、日本発祥の武道を活用した新たなツーリズムスタイルです。
スポーツ庁が2017年に実施した「スポーツツーリズムに関する海外マーケティング調査報告書」では、「日本で経験してみたい「みる」スポーツツーリズム」として「武道」が1位に挙がったほど。
武道は日本固有で希少性の高いコンテンツです。インバウンド促進のキラーコンテンツとして期待が高まり、スポーツ庁は2018年度に「武道ツーリズム」の提唱をしました。
なお、武道は柔道、剣道、空手、なぎなた、弓道などですが、地域によってはこれらに茶道や座禅、杖道など地域固有のコンテンツを織り混ぜてツアーを提供しています。
本記事では、武道ツーリズムに関する取材や調査をもとに、2021年5月時点での私の考察『「剣道」切り口で取り組むべき3つの理由』を記したいと思います。コロナが明けて観光客が増えた時に、武道ツーリズムの需要もまた回復するでしょう。その時に、ツーリズムを提供する事業者だけではなく、剣士の多くがこのツーリズムに関わる可能性があります。
1:海外での剣道需要の受け皿として
2017年、私はオランダに移住しました。中学生の頃から続けていた剣道を継続したいと思い、オランダでも剣道道場に所属。
オランダでの剣道経験を通して識ったことは、日本国外で稽古に励む剣士たちの情熱です。
ライターとして取材も重ね、これまで何十年もかけて日本国内外での剣道普及にご尽力なさってきた先生方のご苦労や努力も教えていただきました。
「もっと剣道と日本を理解したい」
熱心に稽古に励む人ほどそう思うようです。そういった方々に日本で最高の経験をしてもらい、お互い良い関係を構築をするために、武道ツーリズムは大きな役割を果たしてくれるでしょう。
2:国内にいながら日本を再発見できる
オランダでの印象的な経験の一つに、「日本に対する捉え方が変わったこと」があります。これは私だけではなく、海外で剣道を経験したほとんどの方が同じことを言っています。
自分たちの文化を、人種も育った国も違う人々が実践しているのを見ると、「こういうところが魅力なんだ」と、外から見た自分たちの文化の良さみたいなものを感じることができます。日本の魅力について改めて考える素晴らしい機会になるはずです。
東大を中退なさって単身フランスに渡り、海外にいながら八段を取得なさった好村兼一先生の『剣道再発見―剣道の「深み」を求める稽古法』や、ハンガリー、アラスカ、ニューヨーク、インドネシア、オーストリアなど各国での先生の奮闘を描いた『ニッポン剣道、世界へ』からは、その面白さを垣間見ることができます。
3:競技と地域の活性化、収益化
少子高齢化に向かう日本では、残念ながらほとんどのスポーツや武道でも少子化が余儀なくされます。競技人口が減ることを前提に、その競技を活性化するためには外からの新しい刺激が有効ではないでしょうか。
「2」にもつながりますが、外の世界の方々に認めてもらうことは、自国の文化の魅力を再確認することにもなります。すべての人に当てはまるわけではありませんが、いつか日本の外に出て仕事をする機会が訪れた時に「日本人であること」を裏付ける要素は、強いアイデンティティになり、必ずプラスになります。
また、異文化・他言語に触れることは子供の教育にもいいはずです。本や机に向かうだけでは得られない、強烈な体験を得ることができます。競技人口が少なかったとしても、国際感覚と言語能力に秀でた優秀な子供剣士が育ったら、面白いと思いませんか?人との交流が「話したい」「学びたい」「知りたい」という欲求を刺激し、学びにつながることを期待します。
さらに、武道ツーリズムは特に地方でその効力を発揮すると思います。東京や大阪、京都などの主要都市だけではなく、日本全国に眠る文化や観光資源を知ってもらえば、海外に限らず国内の人々も誘致することができるでしょう。
「マイナー競技の、閉ざされた世界で果たしてどれだけのお金が回るのだろう?」
これは剣道に関わる多くの人が持つ疑問ではないでしょうか。しかし、稽古会やイベントでお金を集めるのは、これまでの業界の慣習から気が引けます。旅行など多くのお金が動く可能性のある他業界と、無理なく協業することで収益化も大いに期待できるのではないでしょうか。
課題を知って対策を
このように、大きな可能性を秘めた武道ツーリズムですが課題もあります。まずは言語。剣道経験者ならうなずけることかと思いますが、剣道で使われる言葉は非常に特殊で、単語一つにいろいろな意味が包含されます。こういった点を踏まえた上で、ライト層(初心者)にも既存層(経験者)にも正しく概念を伝える通訳者が必要です。
国によっては「触ってはいけない身体の部位」があったり、日本では許される発言が世界的には大きな批判を受ける差別発言であることも。受け入れ先は、その国固有の文化や価値観を事前に理解し、気持ちよく過ごせるよう配慮が必要です。
また、剣道家の多くは奉仕の精神が強く、報酬を受け取らない方も多いようです。しかし、500円でもいいので出稽古体験者にはお金を払ってもらうと、お互いに安心ですし道場運営にもプラスになります。
最後は集客。コンテンツを作っても見つけてもらえなければ人は集まりません。宣伝になってしまうのですが、既存層に向けた宣伝をしたい場合は、ぜひKendo Jidai Internationalにお声がけください。月間PVは約2万と少ないですが、全世界に約400人の有料会員がいて、Facebookのフォロワーは約1万6,000人、YouTubeチャンネルのフォロワーは約2万人です。剣道に関心の高い層にアプローチできます。
まとめ
武道ツーリズムに関する記事を書いたのは2019年初頭で『観光資源としての「武道ツーリズム」 先人の精神性を再発見するきっかけに』が始まりだったのですが、あれから2年経ってさらにいろいろな情報が集まるようになりました。剣道界にとっても魅力ある分野だと思いますので、これからも取材を重ねたいと思います。