「正剣」を英語で説明するには

2019年11月3日に開催された全日本剣道選手権大会。福岡の國友鍊太朗選手が茨城の松﨑賢士郎を破って悲願の優勝を果たしました。
雑誌「剣道時代」は「正剣ここにあり」というタイトルで優勝を報じ、私が住むオランダをはじめ欧州でも話題を呼びました。

國友選手も松崎選手も、本当に美しく格好良い剣道で、大きなインパクトがあったと思います。これから海外で英語で剣道を説明する際に「正剣」が話題に出ることも多くなるだろうと感じました。

では、実際に「正剣」を英語で説明するとしたら、一体どう表現するのが適切なのでしょう。

「正剣」の定義とは

日本語で書くと「正剣」の二文字。
日本人で剣道をしている人であれば漢字と文脈から意味を汲み取れると思います。

しかし、英語で説明する場合は少し勝手が異なります。言葉だけ訳すと「正しい」はcorrect、「剣」はkendoですが、それで意味が伝わるのでしょうか。出来るだけ正確に意味を伝えるために、まず日本語の定義から調べてみました。その定義に沿って、適切な英語訳を考察したいと思います。

Yahoo!知恵袋の回答

正剣て、インターネットで調べても個人ブログやYahoo!知恵袋ばっかりで定義が全然発見できないんですよね。専門用語だから辞書にも載ってないし。Yahoo!知恵袋の回答で、個人的に一番「正剣」を説明する際に適切そうだと感じたのが「基本技を磨き上げ、真向正面からぶつかり勝利する剣風」という説明でした。

剣道雑誌での表現

今回の國友選手の優勝特集記事にもヒントがあるかもしれません。
ちなみに最近、雑誌『剣道時代』は英語版・日本語版のWebマガジンを始めました。海外在住で雑誌を買うのが難しい方々に向けて作られましたが、もちろん日本にいてもWebから記事を読むことができます。

この記事内では、「捨て切った打突が光る正統派の選手」と、國友選手と松崎選手を表現してました。かっこいいですね〜。

また、下記のようにも書かれています。重要そうなところは勝手に太字にしました。

試合開始直後から端正な構えに気迫を込める。以前から構えの良さには定評のあった國友選手。その良さの最大のポイントは左の収まりだろう。「左足、左の膕、左腰、左脇、左拳」がピタリと決まっている。このことにより、丹田に集めた気が剣先から相手に向かって激しく放射され圧となるのだ。面を得意としながらも、剣先が浮くことはなくむしろ低めについているため、体つきはスラッとしているが構え合った時の威圧感にはすさまじいものがある。構えのよさでは松﨑選手も負けてはいない。足幅はやや前後に広めながら下半身が安定し重心が真ん中に落ちている。それでいて上半身には力みがない

第67回全日本剣道選手権大会 : 正剣ここにあり。 國友鍊太朗 初優勝

国際武道大学・筑波大学を卒業し、現在大学で日本文化や剣道を教えていらっしゃる先生にもご意見を伺ってみました。なかなか言葉にするのが難しい、感覚的な言葉のようです。
「正しい剣道」は指導する先生の思想や「理想とする剣道像」によっても定義が変わってきます。このため、あえて具体的に言葉にするのであれば「物理的にも、戦術的にも、合理的な剣道のスタイル」と表現するのが適切では、とご意見をいただきました。

「正剣」の英訳に関する考察

さて、「正剣」についてだいぶイメージができてきましたので、ここからは英訳です。アメリカ・カナダ・ドイツ・オランダ…各国に在住する英語に堪能な先生方にご意見を伺いました。

swordに精神性は宿っているのか

オランダ在住の先生はtrue swordと正剣を表現していました。「saying true to….」 で「に忠実に…」という意味です。「剣」に対して忠実な心を持つ、という誠実なニュアンスがあります。

ちなみに、英語を話す文化圏が全て共通の感覚を持っている訳ではありません。英語は共通語として普及していますが、国ごとに文化も、言葉に対する感覚も異なります。

最近読んだ本で印象的だったのが、「西欧の国では物事を二元論的に捉えるが、日本は一元論」という話です。日本では剣道の指導をするときに、身体的な動きと心を同時に教えますが、国によっては身体と精神を別に考えて指導するそうなのです。

「八百万の神」に象徴されるように、私たちはときに「モノ」にも神が宿ると考えます。キャラクター化が多いのも日本独特の文化ではないでしょうか。このため、「剣」をただの物質的な意味ではなく、精神性も込めた言葉として使います。でも、これが国によっては「swordは物質的な意味のみ表す」らしいんですね。

そこで、あえてswordは使わずにclean and proper kendo(美しく適切な剣道)、true-to-basic kendo(基本に忠実な剣道)と表現するのがいいのではというご意見もいただきました。

また、英語や他言語に翻訳した場合、日本語のように「正剣」とたった2文字でほぼ全ての人にコンセンサス(合意)を取るのは難しいようです。

このため上記の言葉に加えてcorrect and legitimate kendo as opposed to tricky shiai kendo(小手先の剣道と対極に位置する、正しく理にかなった剣道)と補足するというご意見もいただきました。

Strait, Correct, Disciplined

ドイツの先生に教えていただいた、straight kendo(まっすぐな剣道)という表現も素敵だなと感じました。また、フィンランドの友人は好んでcorrect kendo(正しい剣道)という言葉を使います。冒頭で、correctだと直訳すぎるかなーと心配しましたが、シンプルで伝わりやすいかもしれません。disciplined kendo(律せられた剣道)という言葉も、厳しく正しい、というニュアンスを感じます。

まとめ

今回の記事、剣道と英語をテーマにしててすごくマニアックな記事ですが、最後で読んでいただいてありがとうございました。一覧にするとこんな感じ。おそらく会話の文脈によっても選ぶ英単語は異なると思います。

  • true sword(正しい剣道)
  • clean and proper kendo(美しく適切な剣道)
  • true-to-basic kendo(基本に忠実な剣道)
  • straight kendo(まっすぐな剣道)
  • disciplined kendo(律せられた剣道)
  • correct kendo(正しい剣道)

色々な方にご意見を伺ったのですが、言葉の使い方から文化の違いを感じることもあり、非常に勉強させていただきました。公式な定義はない言葉ですが、皆さんが普段なんとなく感じていることが上手くまとめられたら嬉しいです。

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横浜出身、オランダ在住のフリーライター&Webディレクター。ジャンルを問わないSEOライティングが得意です。ディレクションはLP・採用サイト・企業サイト・オウンドメディア、何でもやります。お仕事のご依頼は[marikoアット1design.jp]もしくはTwitterへ。[ID mariko_cabin442] 最近、剣道五段に受かりました。旅行と読書と寝ることと、漫画が好きです。細かいことを気にしない性格です。