最近、翻訳していておもしろかった記事に、上原祐二さんの『私が考える理想の構え3つの条件』があります(剣道時代 2024年 01 月号に掲載されています)。
メインテーマは「構え」なのですが、上原さんが考える「理想の構え」の条件の一つに「発声」があって、翻訳する上でご本人に質問するなど、やりとりさせていただいたのですが、非常にたくさんの学びがありました。翻訳自体も楽しい作業でしたが、私の日々の稽古の意識も変わったほどです。
このブログ記事では、翻訳を通しての気づき、記事を読んだ上での私の発声に関する所感を記載したいと思います。
丹田に気を充実させ、発声で「肚をつくる」
上原さんは、冒頭で理想の構えの要件に以下の三つを挙げていました。
① 丹田に気が充実している
私が考える理想の構え3つの条件(上原祐二)
② 両肩の力が抜けている(肩がおちている)が、相手に瞬時に対応できる(打突を出せる)
③ ①と②の状態で、剣先が相手にプレッシャーをかけている
個人的に強く印象に残ったのは、学生とのエピソード。自分より上位の相手にはめっぽう強いのに、実力が同等もしくは少し劣る相手と試合をする時には、なかなか思うような調子が出ない生徒がいたそうです。その原因の一つに上原さんは「発声」を挙げていました。
発声を通して丹田に気を溜めることで、「肚をつくる」ことができる。上位の相手に対しては自然と気が引き締まり「肚」ができるが、そうでない場合は発声で意図的に気を充実させなければならない、といった内容でした。
指導にも、自身の稽古にも活きる内容
私自身が少年剣士たちに「発声」の目的を説明するときは、「自分を鼓舞するため」「相手を威圧するため」「技に冴えを出すため」などと伝えています。でも、最近の子どもたちは大声を出す機会が減っているというか、発声に苦戦しているように感じます。
大きい声を出すことはとても大切で、その理由の一つに「肚をつくるため」と説明すれば、腹落ちしやすい気がしましたし、私自身もそのようなイメージで稽古をするようになりました。
「発声」はKiaiと訳すべきか、Hasseiというべきか
上記を踏まえた上で、「発声」はKiaiと訳すべきか、Hasseiというべきか、迷いました。
オランダ人の翻訳者に相談したところ、「海外の人はhasseiを知らないので、今までは発声をkiaiと訳していた。でも最近、発声という概念を伝えるためにも、hasseiでいいかなとも思ってる」とのコメントをもらいました。
確かに、稽古の中で「Kiai! Kiai! More Kiai!」といった掛け声はよく耳にしますが、「Hassei」とは言いません。発声を直訳するとvocalizationですが、剣道的な意味も含めるともう少し深みのある言葉のような気がします。
だから、やっぱり「Hassei」で言葉が通じるのが理想なのかなぁなんて、翻訳者との会話を通して思いました。
発声に関する参考図書
最後に、上原さんにお薦めしていただいた発声に関わる書籍や動画をご紹介します。
『剣道日本 2014年 02月号』
発声を特集テーマにした号。発声の他に「稽古不足をおぎなう方法」をテーマにした特集や、巻頭の内村先生のインタビューもとても面白いです。
『ゾーンの入り方』室伏広治
オリンピックの金メダリスト室伏さんの本。第二章の「ゾーンに入る」で剣道の発声や呼吸について言及されています。
『これから「発声」の話をしよう〜【剣道 Kendo】 【百秀武道具店 Hyakusyu Kendo】』
防具屋さんYouTuber、百秀武道具店のウガ店長の発声に関する動画。
『私が考える理想の構え3つの条件』の翻訳記事
https://kendojidai.com/2024/01/08/requirements-to-create-an-ideal-kamae-uehara-yuji/