英国大使館が出しているドキュメントなのですが、Twitterのタイムライン上にこんなページが流れてきました。
『海外在住が及ぼす精神的な影響』。
在英国日本国大使館 精神科顧問医の阿比野先生が執筆なさった記事で、読んでいて共感することが多かったです。これから海外生活をする・もしくはまさにしている留学生、駐在員の方々、そのご家族、移住してきた事業主の方々はぜひ目を通しておくことをおすすめします。
目次
海外生活が与える精神的な影響
私は、今まで留学や駐在の経験がなくオランダが初の海外生活でした。
英語は未熟ですが基本的なコミュニケーションは大丈夫なので「まあ、いけるでしょう」と安易に考えていたと思います。また、移住前に収集した情報はポジティブなものが多く、メンタル面でのトラブルは全く想定していませんでした。
しかし、ネイティブ圏ではない環境で暮らすのは想像以上に大変でした。最初の数ヶ月は見るもの全て珍しく旅行気分で楽しいです。しかし、長く住むとなるとまた話は別であると、後々痛感しました。
上記のドキュメントでは、海外生活で変化するものとして、(1)言葉、(2)文化・習慣、(3)自分の周りにいる人々、(4)生活環境をあげています。
(1)言葉
自分の要求を相手に伝えたり、交渉したり、自分の気持ちを言葉にしたりなど、日本ではごく普通にできていたことが、言葉が変わることで、急にできにくくなってしまいます。日本語では出来ていたことが、出来ないという、不満感や失望感を感じることにつながります。(2)文化・習慣
日本では余り考えることなく、当たり前であると思っていたことが、相手に全く通じなかったり、相手が何も気にしていないという経験に、繰り返し出くわすことも希ではありません。(3)自分の周りにいる人々
外見が異なる人たちに囲まれて、頭の中ではわかっていても、恐怖感、違和感を感じることがあります。さらに大切なこととして、自分のことを比較的自由に話すことができた人、一緒に何かを共有してきた人たちが、家族を除き、身近にいなくなっています。(4)生活環境
海外在住が及ぼす精神的な影響
趣味など、「これをしていれば時間を忘れられる」ということが、出来ない環境にいる方も多いと思います。
上記にある通り、まず母国語と違って英語では思ったことを自由に話すことができません。私の場合は、剣道コミュニティに属していたので日本語が通じる人も多かったのですが、自分の気持ちを自由に伝えることができないというのは地味にストレスです。
文化・慣習の違いももちろんあります。日本は良くも悪くもお節介な人が多く、「大丈夫?」と声を掛け合うことが多かった気がします。オランダはどちらかというと「助けが必要なら自分から言うはず」といったスタンスというか、個人を尊重しているので日本ほど声掛けがないように感じます。「助けてほしい」と言えたらいいのですが、そもそも何に対して助けが必要なのか、自分に何が不足しているのか、トラブルが起こっているのか気づけないこともあります。
時間を共有してきた人たちと疎遠になってしまうことも、自分にとっては大きな変化の1つでした。今はオランダでも人間関係ができてきたので大丈夫ですが、一時期は心にぽっかり穴が開いたような気持ちにもなりました。
”失った”という感覚
このドキュメントを読むまでぼんやりとしか感じていなかったのですが、言葉、慣れ親しんだ文化・慣習、そして友人や家族。確かに”失った”という感覚がありました。生まれて初めて感じた喪失感だったと思います。
今まで経験したことがなかったので、一体この感覚がなんなのか言葉にできなかったのですが、ドキュメントを読んで「これだ」と思いました。
また、私だけではなくこの2年半で出会った駐在員のご家族の方や留学生など、同じようにストレスを抱えている人を何人か見てきました。全ての人に当てはまるわけではないと思いますが、どんなストレスが起こりうるのか、事前に知っておくことは非常に重要だと思います。
対策
ドキュメントでは、「海外で、言葉も自由に使えない、慣習も考え方も違う、身なり、顔形、皮膚の色の異なる人の溢れた場所で生活することは、とにかく大変であるということです。そのことを繰り返し自分に語りかけていくことが、とても大切なことです。」とあります。
日々の出来事や気持ちを記録する
私は日記やブログで文章を書くことで自分の現状を認識して、気持ちを発散してきました。特に日記は、毎日書くことで「自分には確実に積み上げてきたものがある」と自己肯定することにつながりました。元来ポジティブな性格なので、大した積み重ねがなくても「私って本当に頑張ってる」と本気で思えています。
紫外線不足に備える
日照時間が少ないのも鬱々とした気持ちになる原因の一つと言われています。このため紫外線ライトを購入したり、サプリメントを飲んでビタミンDを補給する人も少なくありません。
趣味を持つ
上記のドキュメントで「趣味など、「これをしていれば時間を忘れられる」ということが、出来ない環境にいる」ことがストレスに繋がるとありましたが、私の場合は剣道にずいぶん救われました。
もう20年以上、準備体操から最後の切り返しまでほぼ同じパターンで稽古を積んできました。異国の地にいても、心が落ち着かなくても、悲しいことがあっても、剣道をしているときは「今この時」に集中することができます。しかも大きな声を出すし、汗もかくし、疲れるからぐっすり寝れるし、いいこと尽くしです(デメリットは、稽古中やや苦しくて痛いこと)。日本文化に理解がある人が多いので、そこまで大きな文化のギャップに苦しむこともありません。そんな時間が少しでもあることは、大きな救いになります。
まとめ
海外生活は見るもの全てが珍しく、素晴らしい出会いや気づきも多いです。しかしその反面、日常生活が脅かされるほどのストレスやトラブルが降りかかる可能性もあります。特に、中長期で日本と違う環境で暮らす方は、メンタルケアについて知っておいて損はないはずです。何か変だと感じたら無理せず、友人や家族、カウンセリングなどの専門機関に相談するのも大切だと思います。