剣道の翻訳の仕事を始めたときのこと


私の仕事は文章を書くことがメインなのですが、雑誌『剣道時代』の英語版Webサイトの運営もしています。担当業務はWebサイトとソーシャルメディアの運用がメインで、他に翻訳担当、YouTubeの動画担当、エンジニアがいます。

運営を開始してからもう2年が経ちました。この2年でいろいろなことがあったのですが、仕事を始めたきっかけや、忘れられない思い出、いま考えていることについて記録しておこうと思います。

『剣道日本』での記事執筆

オランダに来たばかりの頃、私は雑誌『剣道日本』で「海外剣聞録」という連載を持たせてもらっていました。オランダに渡航する前に企画を持ち込んだんです。せっかくヨーロッパに行くんだから、海外の剣道事情を取材しようと思っていました。編集長の安藤さんはすごく親切で、企画を快諾してくださった上にヨーロッパの事情に詳しい先生を紹介してくれました。

楽天剣道部の元部長のマキシムや、同じ道場で稽古してたベトナム人のトンくん、オランダでアーティストとして活動してる元代表のシーキーなどにインタビューをしました。

もっと広く色々な人の話を聞きたいと思い、オランダ代表の男子キャプテン・ヤオカに「現役の代表や監督にインタビューできないかな」と相談にいったところ、「うん、いいんじゃない」と前向きな返答をもらいました。

しかし、少ししてから「ねえマリコ、その仕事ってお金もらえるの?」と聞かれたんです。私は「インタビューの見返りに金銭を要求されてる…」と思い、慌てました。インタビュー対象者には、謝礼を支払っていなかったのです。

剣道の知識を翻訳したい!

しかし、これは「記事を有償で書いているのかどうか」という質問でした。そしてほどなくして、ヤオカから「剣道雑誌の記事を翻訳できないだろうか」と相談を受けます。

ヤオカは日本人とオランダ人のハーフ。国際武道大学と筑波大学に留学して剣道を学んだ経験があり、日本語も英語も堪能でした。剣道もオランダで一番強くて、もう10年以上代表として活躍しています。

「自分は日本語が読めるから剣道雑誌に書いてあることが分かるけど、ヨーロッパにいる多くの剣士は日本語が読めない。日本の先生の剣道セミナーには、100ユーロ近い講習費用を払って、他国から飛行機で移動して宿泊までしている。それくらい勉強熱心なのに、翻訳されている知識が圧倒的に少ない。」というのがヤオカの話でした。

みんながインスパイアされるような情報を発信して、ヨーロッパの剣道を盛り上げたいんだ」と言われて、すごく感動しました。自分以外の人のために何かをしようとしているところに感動したのか、何に感動したのか正直よくわからないのですが、言葉一つ一つが、すごく純粋で心に響いたんです。

「じゃあ、企画書作るから、一緒に剣道雑誌に提案しようよ!」と言ったのが全ての始まりです。

初めてのミーティング

企画書の叩きを作って初めてのミーティングは、アムステルフェーンのショッピングセンター内にあるアジア系のファーストフード店で行いました。稽古の後だったと記憶してます。

もはや何の料理だか覚えてないのですが、ヤオカが注文してくれて、店員さんが席まで運んできてくれたんです。カレーっぽい食べ物だったのですが、店員さんは私の右腕にカレーの汁を豪快にぶっかけました。

その年のオランダは大変寒く、私はスノボのウェアをコートがわりにしていました。なので、ある程度防水性はあるのですが、右腕がカレーまみれになりました。相当びっくりしたのですが、店員さんは「あ…ごめんなさい…」と呟いて去って行きました

そして、ヤオカも「じゃ、始めようか」と打ち合わせを始めようとしてました。衝撃。ちょっと待ってくれ。私的には、この日の打ち合わせ無しになるくらいの衝撃なんだけど?!

「ふきんもらってくるから、ちょっと待って」と断りをいれ、私にカレーの汁をぶっかけた店員さんに「ふきん貸してください」と言いに行きました。そしたら店員さんも手伝ってくれて、一緒にカレーをふきました。台所用洗剤で……。

この「衝撃!カレーの汁事件」のこと、一生忘れないと思います。

後に、ヤオカにこのカレーの汁事件の話をしたら、「店員さん、まだ高校生だったから失敗してもしょうがないかなって思ったんだ」と言われました。寛容の国・オランダです。

企画の実現

カレーの香りに包まれながら、ヤオカと2人で話し合って企画書を仕上げ、剣道雑誌の会社に提出しました。当時は、あらゆる剣道メディア(動画も記事も)の情報を集約してプラットフォームみたいなサイトを作りたいと話していたのですが、『剣道時代』さんと数回の打ち合わせや編集長小林さんのオランダ訪問などを経て(オランダに来てくださった!)、2018年7月にKendo Jidai Internationalをリリースしました。

ペイウォール式の剣道マガジン

このWebサイトはペイウォール方式で運営しています。ペイウォールとは、コンテンツの一部を有料化し、対価(月額6ユーロ)をお支払いいただくことで全ての記事が閲覧できるものです。ペイウォールの方式を採用しているサービスの例として、新聞社のオンラインメディアなどが挙げられますが、剣道界では初めて作ったかもしれません。

私はもともとWebの制作会社や楽天の決済の部署にいたので、課金可能なサイトの作り方については少し知識がありました。しかし、がっつりバックエンドの知識がある訳ではないので、運営を開始して一年で「そろそろ…限界かも…」という状態になってきました。購読者が増えてきて、管理も煩雑になり、しかも決済はPayPalしかなかったので利便面でも課題がありました。

新しい2人のメンバー

そんな時、オランダ剣道連盟のWeb管理をしているスサントがチームに入ってくれました。彼はオランダの大手金融機関のエンジニアやコンサルティングをしていて、ものすごく優秀でした。

彼のおかげで管理がかなり楽になり、決済方法もクレジットカード、Apple Pay、最近では、ヨーロッパのローカル決済(オランダだとiDEAL)が導入されました。

Webサイトの他に、FacebookInstagramYouTubeチャンネルもあって順調に成長してます。

YouTubeを管理してくれるメンバーも増えました。ヤオカの弟のマコトです。YouTubeでは、過去の剣道時代の動画を一部英訳し、英語圏の方々に向けて発信しています。すごい勢いでフォロワーが増えていて、動画のニーズの高さを感じずにはいられません。

このように、今ヨーロッパチームは4人でサイトの運営をしています。翻訳担当のヤオカ、バックエンド担当のスサント、動画担当のマコト、私はサイトの細かな運用。

普段一人で黙々と作業していることが多いので、Kendo Jidaiのメンバーと一緒に仕事ができることはすごく楽しいし、励みになっています。

ヨーロッパで剣道をするということ

海外で剣道を続けることは、楽しい反面大変なこともあるんだろうなと思います。小さい頃から頑張ってきた友達が、ライフステージの変化でいなくなったり、人間関係がうまくいかなくなって、やめてしまうこともあります。
マイナー競技で日本ほど大会の数も多くないし、代表を引退したら剣道をやめてしまう人も多いそうです。

だから、私たちは以下の目的を達成するために、サイトを運営しています。

  • 創刊44年の歴史を誇る『剣道時代』の記事のなかから外国人剣士に役立つ情報を選定し、翻訳する
  • 外国人剣士の視点から共通の経験や学びを共有し、世界の剣士たちの絆を強化する
  • 外国人剣士たちの挑戦と、彼らが持つユニークな経験に対する日本の意識を高める

最後の二つは、クリストファー E・J ヤングさんのような方にコラムを寄稿していただいたり、試合や選手をインタビューすることで達成していければと思っています。知識を得るだけではなく、世界で頑張っている友を励ますようなメディアを作っていきたいです。

ちょっとした備忘録みたいな文章になってしまいました。いつか振り返った時に「あの時、こんなことを思っていたんだ」と忘れないように、ここに記録として残しておきます。2年前に、友人のヤオカが「みんなのために翻訳がしたい」といった言葉は、私の心に響き、月日が経っても色褪せずにきっと残ると信じています。


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ABOUTこの記事をかいた人

横浜出身、オランダ在住のフリーライター&Webディレクター。ジャンルを問わないSEOライティングが得意です。ディレクションはLP・採用サイト・企業サイト・オウンドメディア、何でもやります。お仕事のご依頼は[marikoアット1design.jp]もしくはTwitterへ。[ID mariko_cabin442] 最近、剣道五段に受かりました。旅行と読書と寝ることと、漫画が好きです。細かいことを気にしない性格です。