100%リサイクル可能。ダンボールの家・Wikkelhouse(ウィッケルハウス)

オランダで暮らすようになって2年が経ちました。
私は留学や海外駐在経験がなく、日本以外の国で暮らすのはオランダが初めてです。
初めての海外リモートワーク、ゼロからの人間関係構築・仕事の獲得、住宅探し…この2年で本当に色々な経験をしました。

環境に対する意識の変化

住む国が変わったことで、仕事の仕方や暮らし方はガラリと変わりました。
日常のちょっとした場面にも日本とは全く違う側面があり、じわじわと自分の中に変化を起こしてきたように感じます。特に、環境に関する意識が変わりました。

例えば、オランダのスーパーでは基本的にプラスチックの袋が配布されません。2016年1月1日から無料のプラスチックの袋は配布が禁止されています。これは、路上や海洋ゴミ、資源の浪費を防ぐためです。
(参照:Government of the Netherlands『Ban on free plastic bags』)

また、食品や洗剤にはエコの認証マークがついているものが多く、日常の中で環境に対する配慮が刷り込まれていく気がします。

卵や肉類には、家畜に配慮した環境で飼育が行われているかを表す認証マークが

ダンボールの家・Wikkelhouse(ウィッケルハウス)

環境に対する意識の高さは、食品だけではなく住宅の領域までも広がります。
今回、私が見学してきたダンボールの家・Wikkelhouse(ウィッケルハウス)も、分解可能で出来るだけ地球に優しい住宅を作ろう、というコンセプトで開発されました。

ユニークで可愛くて、そしてすごく面白い家です。記事を読みながら、私と一緒に見学をした気持ちになってもらえたら嬉しいです。

まずは完成した家を見てみましょう。Wikkelhouse(ウィッケルハウス)の工場は、アムステルダム中央駅からバスで20分ほどのところにあります。
上の写真はモデルハウスで、工場のすぐ側に設置されています。
入り口の部分はガラス張りになっていて、家の中は自然光で照らされています。

写真を見るとお気づきになると思いますが、この家は、上記の模型のように分解され、くっついてできています。

上記の写真は、モジュール(組み立てのための部品)を作っているところです。
Wikkelとは英語でwrap(包む)という意味。その言葉が表すように、家の形をした型にくるくるとダンボールを巻きつけ部品を作っていきます。

この家は、材料も生産の過程も地球に優しく、さらに100%分解可能。使用されている接着剤も環境に優しいそうです。この家の説明を聞いているときに「ボンドにもプラスチックが使われてるでしょ。私たちの生活には、本当に多くのプラスチックが使われている」と言われました。説明されて初めて、「ボンドにもプラスチックが使われているのか」と思い至りました。

でも、どんなに地球に優しくても、住宅として成り立たなければ意味がありません。住み心地や耐久性、水まわりや火事に対する危険など気になるところ。

水まわりはダンボールと木を組み合わせて作っているそう。

ダンボールは紙なので、火事で燃えることを心配する人もいるかもしれませんが、日本だってたくさんの木造建築があります。また、特殊な加工を施しており水にも強いそう。

さらに、寒さが厳しいオランダやヨーロッパにおいて気になるのは保温性です。
これに関しても、断熱材を壁の中に入れることで保温性も抜群とのこと。

このように、Wikkelhouse(ウィッケルハウス)の最大の特徴は、環境への負担を最小限に抑えていることです。
私たちは普段、自分たちが口にする物、身に付けるものがどこから来て、そしてどこに・どうやって還っていくのかを知ることはありません。

住宅は、人生の中でも付き合いがもっとも長いものの一つです。「自分たちが住む家は、分解可能で地球に優しいか?」と考えたことはあるでしょうか。私は、Wikkelhouse(ウィッケルハウス)を見学するまで考えたことがありませんでした…。

面白いのは、特別な新素材ではなく、日常的な素材を画期的なアイデアに転換させている点です。彼らは平凡な素材から、美しくて住み心地も良く、デザイン面でも優れた住宅を創り出しました。

Wikkelhouse – Fiction Factory
Foto en © Yvonne Witte

ダンボールで家を作ろうと思った理由

そもそも、なぜダンボールで家を作ろうと思ったのかを聞いてみました。
オリジナルのアイデアは他の人が作って一度失敗したらしく、その失敗したアイデアを1990年に見つけたのがきっかけだそうです。また、彼らの他にも紙で家を作っている会社はあるとのこと。「日本人でも、建築家の坂茂さんが作っているよ」と教えてもらいました。

なぜそんなにも環境に対する意識が高いのかも聞いてみました。これは他のオランダ人にも何人か聞いてみたのですが、はっきりと理由はわからなくて、ただ自然と環境を意識する状況ができてきているそう。「短期的ではなく、長期的に環境について考えなければ自分たちが生きていけない」とあるオランダ人の友人は言っていました。冒頭でご紹介したように、ビニール袋の使用を禁止するなど政府が環境問題への対策に積極的なのもあるかもしれません。

今回の見学には、Wikkelhouse(ウィッケルハウス)を製造するFiction Factoryのエンジニア・Oepさんに付き添っていただいたのですが、2006年に公開されたドキュメンタリー映画『不都合な真実』の影響も大きいとおっしゃってました。

私もこのドキュメンタリーを映画館で観ました。当時は大学生。地球が危機的な状況なんだな、と感じたものの、就職活動や社会人としての生活…自分のことにいっぱいいっぱいで、一つも行動を起こしていませんでした。
自分の目の前にいる人たちは、情報をキチンと受け止めて、会社を作って行動しているんだと、自分との大きな差を感じました。「私も映画を観たけど、何も行動していないや…」と呟いたら、「でも君は、文章が書けるでしょ。僕の話を聞いて、それを周りの人に伝えてよ」と言われました。

オランダの人が全員そうとは思いませんが、「小さなことでもいいから少しずつ始めよう」「とりあえずやってみよう」と、実際に行動している人が多いと感じます。なので、ここまで読んでくださった方も、もしよければ記事をシェアしたり、何か行動を起こしてくださったら嬉しいです。自分が食べる物、身に付ける物、使う物が、生まれてから廃棄されるまでの過程で他の生き物や環境を踏みにじっていないか、少しでも考えるきっかけになればいいなと思います。

恐れる気持ちに従わないこと

Wikkelhouse kitchen. Picture: © Wikkelhouse / Yvonne Witte

もう一つ、話を聞いていて印象的だったことをご紹介します。
環境にも配慮してて、デザイン面も優れていて、さらにビジネスとして事業を成り立たせることは容易ではないはずです。
なぜこのアイデアが生まれ、育ち、継続しているのかが気になりました。オランダは日本よりも起業家が挑戦をしやすい環境があるのでしょうか。

この点に関しては、Oepさんはこのように答えてくださいました。
「そんなのは無理だとか無茶だとか、周りの人たちに毎日言われるよ。でも、自分の心にある恐怖に従ってはいけないよね。また、僕たちには日本人のような謙虚さはないけど、自由に考える力があるよ。そういう教育を受けてきたから」。

どこの国にいても、新しいことに挑戦するときは必ずしも周りの人みんなが応援してくれる訳ではありません。でも自分で考えて、決めて、勇気を出して進んでいくことが大切なのではないでしょうか。このWikklehouseは、オランダの他、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、フランス、イギリス、スカンジナビアに搬入されており、2020年までにさらなる拡大を目指しているそうです。国によって住宅に関する規則は異なりますし、きっと簡単なことではないでしょう。しかし彼らは、「Patience is a virtue.(忍耐は美徳である)」と言います。

「あとは、良い人に出会うことが一番大切かな」という言葉も印象的でした。
誰かに笑われたり、信じてもらえなかったとしても、自分が信じたことを貫いていれば、きっと良い縁に恵まれるでしょう。私たち日本人にも、元来勇気の気持ちや、物を大切にする精神、身近なものから美しい物を作る力は備わっています。今回書いた記事が、読んでいる方の何かインスピレーションになれば嬉しく思います。

また、もし日本で事業としてWikkelhouseを作りたい、という方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください。

*アイキャッチの写真はwww.wikkelhouse.comから提供していただきました。(copyright Wikkelhouse / Yvonne Witte)

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ABOUTこの記事をかいた人

横浜出身、オランダ在住のフリーライター&Webディレクター。ジャンルを問わないSEOライティングが得意です。ディレクションはLP・採用サイト・企業サイト・オウンドメディア、何でもやります。お仕事のご依頼は[marikoアット1design.jp]もしくはTwitterへ。[ID mariko_cabin442] 最近、剣道五段に受かりました。旅行と読書と寝ることと、漫画が好きです。細かいことを気にしない性格です。