起業数10年で1.6倍。オランダと日本のフリーランスを比較してみた


欧米先進国の中で際立って起業への関心が高く、フリーランスの数も多いのがオランダです。現在、オランダには約100万人、労働人口の17%もの自営業者がいます。オランダの人々は、なぜフリーランスの働き方を選ぶのでしょう。

フリーランスの定義と割合の比較

日本では「フリーランス」の厳密な定義が少し曖昧です。「個人事業主」の事業形態で活動するフリーランスもいれば、法人企業を経営するフリーランスもいます。また、会社に勤めながら副業としてフリーランスの活動をする人も。「事業形態・雇用形態は様々だが、独立したプロフェッショナル」というのが日本におけるフリーランスです。

対して、オランダのフリーランスは「従業員を持たない起業家」を指し、ZZP(self-employed with no personnel) と呼ばれます。おそらく、日本における個人事業主としてのフリーランスが一番オランダのZZPに近いかと思います。割合に関しては、ランサーズが毎年出してるフリーランス実態調査に「日本における広義のフリーランスは17%」とあるのですが、「広義」なので会社勤めも含まれています。同じ17%でも、日本よりオランダの方がフリーランスの割合は高いでしょう。

フリーランスになる手続きの比較

オランダでフリーランスになるためには、商工会議所(kvk)での登録が必須です。kvkに行かないと始まりません。その時に登録料を50ユーロほど払います。また、クライアントが1社だけだったら、その会社の従業員とみなされてしまうので最低でも3社は取引先があることが望ましいとされています。kvkのホームページには、フリーランスや起業家に向けた記事やイベント情報が満載で、最近オランダで勢いのある小規模事業者が紹介されてたりして面白いです。

対して日本の場合は、極端な話じぶんで名乗ったらフリーランスです。税務署に開業届を出すことが義務付けられていますが、出さなくても罰則はありません。そして商工会議所とはほとんど関わりがないですね…。融資を受ける人とかは利用しているのかな。じゃあ、どうやって個人事業主として活動していることを知らせるの?と不思議に思うかもしれません。日本の場合は、年に一度の確定申告で個人事業主として所得があることを税務署に納税とともに申告します。

納税や控除に関する比較

日本では確定申告は年に一回。まじでこれが一大イベントなんですよ。日々の仕事に追われて経理作業を怠ってると年度末にツケが回ってきます。オランダでは四半期に一度、経費やインヴォイス(請求書)をまとめて会計士さんに報告して経理作業をします。こっちの方が年に一度焦りまくる必要がなくて個人的には好ましく感じています…!また、オランダは税金が高くて有名なのですが、この四半期に一度の納税作業のおかげで一年にまとめて納税する必要がない点もいいなと思っています。

事業形態も、オランダと日本では違うなと感じることがあります。日本では、個人事業主でも従業員を持てますし、家族に支払った給与を経費として控除する制度(青色申告専従者控除)もありますが、オランダでは専従者控除的なことはなさそうです。定義でも「一人で事業をしている人」とありますし。ビギナー向けの控除やサポート制度はありますが、青色申告に対する優遇制度などを見ると、日本はけっこう控除が充実してるんじゃないかな?!なんて思います。

また、オランダには個人が運営する事業の形態に種類があるところがいいです。「パートナー」形式の事業は法人化するほどではなく、誰かと事業を共同運営したいときにこの形態をとります。私も自分の事業のほか、友人と「パートナー」形式で事業を運営しています。

フリーランスの業種に関する比較

オランダのフリーランスは、不動産、卸売・小売業、農業、建築・建設部門が多いようです。建設が多いというのは意外でしたが、確かに私が利用しているコワーキングスペースに入居している企業にも建築・リノベーションに関する企業がいます。オランダ人たちは、住居や建物を資産と考えて大切にしています。アムステルダムの街には古くて美しい建築が立ち並んでいるので、きっとこの分野でのニーズも高いのでしょう。

また、IT系も多いです。現在、多くの若者がプロフェッショナルなフリーランスとして働き、デジタル・ノマドの生活をしています。EU国内であれば移動は比較的容易らしく、確かにオランダ以外の国のフリーランスと触れ合う機会も多いです。日本にも様々な職種のフリーランスがいるので、「いろいろいる」というざっくりな観点では同じ。ざっくりすぎますが。

起業家精神に関する比較

中小企業庁が出している『小規模企業白書 2019』でオランダについて言及されている部分がありました。主要先進国の中でもオランダは起業が盛んで、2007年から2017年の10 年間で企業数が 1.6 倍(2007 年 : 約 100 万社→ 2017 年:約 160 万社)に増加しました。その大半を従業員1名の事業者が占めているのです。また、若者が起業に意欲的なことも特徴の一つ。2013 年には企業経営者の11%が 30歳以下、規模の小さい企業ほど若い世代の経営者の割合が高いのです。

なぜオランダは小規模事業者の数が多く、若者も起業に積極的なのでしょう。同レポートでは多様な働き方を促進する社会制度雇用創出力の低下教育を理由として挙げています。

多様な働き方ができる社会

一つ目の要素は、多様な働き方を進展させる社会制度です。労働時間差別禁止法(1996 年7月15日)では、労働時間の差により昇進・昇給や社会保障の面で差別的に取り扱うことを禁止しています。この社会制度の導入と定着によって、多様な働き方を選択しやすい環境を生み出しているのです。

例えば、私の周りの剣道関係の友達のオランダ人でも、ITコンサルタントとして週4働きつつ、週1日は子供と過ごしたり自分のプロジェクトをしている、という人がいます。国際的な有名企業に勤めている働き盛りの男性です。また、朝の通勤時間帯に子供を自転車に乗せて送り迎えしている若いお父さんもよく見かけます。働き方の柔軟性が高いんだろうなと見ていて思います。

こういった社会状況だと、起業も選択肢として選びやすいでしょう。いいですよね。日本もこんな風になったら素敵だなーって思います!!!

オランダの教育制度

もう一つ、理由として挙がっていたのはオランダの実践的な職業教育。オランダでは、教育を「労働市場に参入できる能力を育成する場」と位置づけ、1990 年代から教育に「起業教育」を取り入れているそう。マーケティングを専攻していた友人は、実際に大学在学中に授業の一環で起業していました。「高等職業教育大学校」では、学生が卒業後に即戦力として活躍できるように連携しているそうです。

オランダは、こういった実践的教育の他に自主性を重んじるモンテッソーリ教育やイエナプラン教育が注目されています。オランダでできた友達の中にモンテッソーリ教育を受けた子達もいるのですが、やっぱり自分たちとは思考回路がちょっと違うな…と感じます。

ちなみにオランダは子供の幸福率が世界一だと言われています。きっと、子供を一人の人間として尊重して、意思決定を自分でさせたりしているからではないでしょうか。あとは小さい頃はとにかく自由に遊んでいるように見えます。あるオランダ人の友人は「小さい頃は宿題とかなくて、遊び倒してて幸せだった」と言っていました。確かに、宿題も何もなければ、食べて遊んで寝ての繰り返しなのでめちゃくちゃ幸せですね。

でも、日本の中学生・高校生になる頃からとても勉強が忙しくなるようです。特に大学進学するような優秀な子たちはめちゃくちゃ勉強しています。オランダは大学への進学率が高くないのですが、これはテストでシビアに進路が決められるからだそうです。日本だったら、高校まで勉強してなくて、大学受験で一発逆転という道がありますが、オランダにはそういうケースは稀だと思います。みんな大学でも一生懸命勉強していて、アムステルダム駅の図書館には夜遅くまでたくさんの学生がいます…。中退してしまう大学生も多いようなので、その点は日本と大きく異なると感じます。

独立心が旺盛なオランダ人

最後に同レポートがあげていた理由は、オランダの国内企業の雇用創出力が低下しており、自分で事業を興す起業が選択肢として出てきているのではというもの。これは、肌感覚的にはそこまで感じません。Linkedinや街中にもけっこう求人があります。私はそれよりも「自分で何かやってみよう」「面白いこと、ユニークなことをしよう」という旺盛な独立心が影響しているのではと思います。自分の周りには「せっかくやるならユニークなことを」と面白いこと考えているオランダ人がたくさんいます。

いかに幸せに暮らすか

他にも日本とオランダのフリーランスには色々比較ポイントがあるのですが、今日はこれくらいにしておきます。もし、オランダのフリーランスに関して調査してほしい、これが知りたい、などありましたらご連絡ください。

最後に、オランダにも日本にも共通していることを書こうと思います。よく、欧米の働き方に学ぼうとか、北欧の働き方を知ろうとか、日本人はまじめなので他国から積極的に学ぼうとしていますが、どこの国も、みんな「幸せ」について悩み苦しむのは同じだと感じています。

働き方に対する最適解や正解は他の世界にはないし、結局は、自分の幸せに向き合って、それを阻害してくるものと勇敢に戦っていく気持ちが大事なんじゃないかなと思います。

参考にした記事


ABOUTこの記事をかいた人

横浜出身、オランダ在住のフリーライター&Webディレクター。ジャンルを問わないSEOライティングが得意です。ディレクションはLP・採用サイト・企業サイト・オウンドメディア、何でもやります。お仕事のご依頼は[marikoアット1design.jp]もしくはTwitterへ。[ID mariko_cabin442] 最近、剣道五段に受かりました。旅行と読書と寝ることと、漫画が好きです。細かいことを気にしない性格です。