先月、宮崎県に武道ツーリズムを体験しに行ってきました。備忘録もかねて、ツーリズムのことについて記録したいと思います。
武道ツーリズムとの出会い
2019年1月に武道ツーリズムについてForbes JAPANに記事を執筆しました。当時、東京にいる友人から武道ツーリズムの盛り上がりについて聞いていて、「これすごく儲かるんじゃない?」と、安易に考えていたことをよく覚えています。どうやら中国をはじめとしたアジアから団体客の需要が多く、一回何十人〜100人単位で受け入れ、一人当たり数万円の消費があるようなのです。
当時、オランダから日本に帰国しようか迷っていました。そして、もし拠点を日本に移すなら、このツーリズム事業に着手したいとも考えていて、事業計画書も作っていたほどです。でも、結局日本には帰りませんでした。オランダに来てまだ2年も経っていなくて、何もかもが中途半端になる気がしたんです。
オランダに残ることを決めたものの、2019年の年明けから春にかけて、プライベートはめちゃくちゃでした。仕事もそれに引っ張られて手がつかなくなり、いろいろな人に迷惑をかけてしまいました。
ある日、一緒に仕事をしているヤオカの家にいくことになって、なぜかそこでヤオカとガールフレンドのオルヤにいろいろ話を聞いてもらって、ボロボロ大泣きしたことがありました。何を話したのか、結論はなんだったのか、もう忘れてしまいましたが、その出来事が区切りになって、もう一踏ん張り、オランダで頑張ろう、と決意を新たにしたことは覚えています。
2019年の夏、ヤオカと一緒に剣道道場をスタートしました。道場を始める際、ベルギーの先生にご挨拶に行ったのですが、その時に武道ツーリズムの話になり、「フランスにいる多田さんも、武道ツーリズムの取り組みをしているみたいだよ。宮崎県と協力していて、ライト層向けのツーリズムではなく、既存層向けのツーリズム。すごく評判が良いらしい」と教えていただきました。
その時は、既存層向けのツーリズムもあるんだ、くらいにしか思っていませんでした。
パリオープンでの出会い
2020年2月、フランスで開催されたパリのオープン大会に参加しました。オランダに来て2度目の冬でしたが、パリの大会に参加したのは初めて。「こんなに大きな大会なのにどうして参加しなかったの?」と聞いたら、「毎年、申し込み損ねていた」と返ってきました。新しいオランダの監督はこういった試合への参加に積極的で、ナショナルチームメンバーだけではなく広く参加者を募ってみんなで参加しました。
2020年の1月に私は一度日本に帰国しているのですが、いろいろあって腎盂腎炎にかかってしまい、点滴を3回くらい打って熱を下げてオランダに帰国しています。新型コロナウイルスが流行し始めた時期で「マリコ…熱あるの…?コロナじゃない…?本当にオランダに帰ってくるの?」と、やや「帰ってくるな」的なことを言われた気がします。
フランスのオープン大会に参加したのは、熱が下がって3日後でした。元からドジな上に体調も万全ではなくて、ボーッとしながら試合に参加。靴をどこかに脱ぎ忘れてしまって、「まずい、靴がない」と会場を探し回っている時に、多田さんご夫妻にお会いしました。
多田さんの本業は防具屋さんで、この日も剣道用品の販売をしていました。忙しそうに会場を飛び回っていて、あんまりゆっくりお話ができなかったのですが、「ぼくは、恩返しがしたくて、武道ツーリズムをやっているんです」とおっしゃっていたことをよく覚えています。恩返し。この言葉を聞いた時、オランダの友人たちの顔が思い浮かびました。
この大会には、慶應義塾大学、国士舘大学なども参加していて、オランダ代表のヤオカとユーリは個人戦で日本体育大学の学生さんと試合をしました(二人とも負けちゃった)。そして試合後、その日体大の学生さんがオランダ人選手のユーリに果敢に話しかけていました。「大丈夫?通訳します?」と話しかけたのですが、ほぼ会話は完了していて、どうやら出稽古のアポイントをとっていたようです。「しっかりした子だな」と感心しました。
オランダに日体大の学生さんがきてくれる!と私たちのテンションは爆上がりです。
彼の名は本田くん。パリの大会から一週間後、ドイツやベルギーでの滞在を経てオランダに入国。ユーリが所属するロッテルダムの不滅道場だけではなく、ヤオカと一緒に作った春心会の稽古にも参加してくれました。この写真の日付は2/20で、オランダでコロナが流行る3週間ほど前です。
ロックダウンを経て、日本に一時帰国
パリでの出会いの後、オランダはすぐにロックダウンになり、夏のバカンスシーズンに一時解除され稽古を再開したものの、またすぐに長いロックダウンが始まりました。今帰らなければ、もう帰れないかもしれない…。そんな気持ちもあり、2020年12月に日本への一時帰国を決めました。
ちょうどその時、海外剣道に関わる人たちへのインタビュー企画を始めることになりました。日体大の学生さんたちと再会がてら横浜でランチをして(一人にはインタビューをしました)、いろいろ話をしました。
その企画では、多田さんにもインタビューをしたいと私は考えていました。そして大学院でスポーツ人類学を学んでいる本田くんも、どうやら論文のテーマが武道ツーリズムらしいのです。
二人で多田さんにzoomでインタビューをすることになり、あわよくば宮崎で実際に武道ツーリズムを体験したい。インタビューで様子を見ながら、アポイントを取ろうと事前に話していました。
zoomでの多田さんの話は凄まじく、絶対にアポを取らなくてはとインタビュー中から思っていました。そして、フランスの好村先生の著書「剣道再発見」の話になった時、「買いに行きたいです!!」と、アポイントを取ることに成功します。フランスで出会った日体大の学生・本田くんと、フランスで出会った多田さんに会いに宮崎行きが決定した瞬間でした。一年前は想像もしてなかったのでびっくりです。
(つづく)