海外で一人で取材・撮影をするのはなかなかに大変です。誰にも相談できない。いつもいつも、「これで合ってるのだろうか」と、孤独を抱えながら取材に臨みます。
なので、今年の欧州剣道選手権大会(ヨーロッパ大会)は、アイルランドにワーキングホリデー中の大学生・杉原くんに手伝ってもらいました。偶然にも、知人が彼の高校時代の同級生で、共通の知り合いもちらほらいます。
彼は思い切って大学を1年休学し、アイルランドで過ごすことを決めたそうです。今年の9月に帰国しましたが、アイルランドだけではなく、色々な国を旅して、稽古もたくさんしていました。自分が彼と同い年の頃に、同じことをできたかというと絶対に無理なので、そのアクティブさを尊敬しています。
彼とアイルランドチームはとても良い関係性を築いていて、アイルランド人たちが日本を訪れた際は、色々なところを案内しているようです。私も彼の高校の稽古にアイルランド人と一緒に参加させてもらいました。そしてアイルランドチームに混じって高校生と試合した…。私が試合してるのも稽古に参加したのもまじで謎だったと思います。混ぜていただき感謝してます。
海外剣道の発展には、本当に色々な人が関わっていて、発展に寄与している人ほど、謙虚で我を出しません。人知れず、たくさんのものを人に与えています。
稽古に同行させてもらったのは、”人知れず”の人たちが、どんなふうに海外剣士と関わっているのかを見たい気持ちが少なからずありました(運動不足なので剣道したかったのもある)。
稽古後、みんなで吉祥寺でお寿司を食べました。駅での別れ際、「じゃあ、明日はチームラボで」と杉原くんが何気なく言いました。その言葉が妙に頭に残りました。彼は、自分の時間と労力ずいぶんを使っているけど、誰かに評価されたいとか、自分の活動のブランディングのためにとか、あるいは就活のためにとか、そういうことは全く考えてないんだろうなと。それは学校で友達に「また明日」っていうのと同じくらい、自然な言葉でした。
後日、彼にどうしてアイルランド剣士たちを案内しているの?と理由を聞いてみたら「向こうにいるときにお世話になったというのもあるけれど、ただただ、一緒にいたいからかもしれないですね」と言ってて、なんとなく腑に落ちました。
彼がアイルランドの友人を訪ねて、スイスとフランスの国境のあたりに行った時の写真を見たことがあるのですが、ものすごい景色でした。こんな景色を見せてもらえたら、いろんなことが「特別」になります。
想像もしなかった、自分一人では到達できない場所に剣道の友達は連れて行ってくれることがあります。それは見知らぬ異国の風景のこともあれば、彼らの剣道コミュニティの風景でもあります。そういった時間を一緒に過ごすと、もう本当に、彼らのことが大好きになるんですよね。ただただ、好きな人たちと一緒にいたい。それはきっとアイルランド人も同じで、こういう心の交流が、日本の外で人知れず交わされているんだと思います。
誰かと誰かの、ピカピカな「特別」は、きっと簡単には想像できない何かを生み出していくのではないでしょうか。きっとそれは何十年も前から、世界の至る所で起こっています。私はオランダに移住して、剣道のコミュニティに本当に支えてもらったんですけど、きっとこういう人たちの「特別」が生み出したことの恩恵を受けていたんだと思います。