日本の少年剣道が抱える課題


昨日、お世話になっている少年剣道の先生と夕食をご一緒させていただきました。

  • 実際に指導されている先生方は、どんな課題を抱えているのか?
  • 剣道人口は、どのようなペースで減少しているのか?
  • 私たちにできることは?
  • 現状を踏まえた上で、最新の取り組みをしている道場はあるのか?

日本の少年剣道の取材を進めるにつれ、私の中で上記のような疑問が生まれてきました。指導のご経験が長い先生のご意見をうかがい、情報をブラッシュアップすることで、できるだけ質の高い記事を書きたいと考えています。

まだ取材途中ではありますが、現時点で見聞きしたことのまとめを書いてみたいと思います。

少年剣道が抱える課題

言わずもがな、剣道人口の減少です。

一体、どういった背景で競技人口が減りつつあるのでしょう。

習いごとの選択肢の増加

少子化で子どもの数が減っていることが大きな要因かと思いますが、団塊ジュニアくらいの世代までは、「習い事といえば野球か剣道」だった状態から、サッカーやテニス、体操、ダンスなど、習い事の選択肢が増えてきたことも大きいでしょう。

ショートコンテンツの普及

Instagram、TikTok、YouTubeのショート動画は、冒頭数秒しか閲覧されないというデータがあります。子どもも親も、短い時間で心を掴むコンテンツに慣れている世代です。

ショート動画を見て「習いたい!」と思う子たちが増えているとしたら、剣道はそういったものを競合の一つと見なして戦っていかなければなりません。

体罰や人権侵害

昭和世代の先生方のお話を聞いていると、ちょっとここでは書けないような体罰・暴言(人権侵害?)が横行し、それをくぐり抜けて生き残ってきたんだな…と感じます。その時代を生きてきたやり方で、令和の子どもたちに接したとしたら、続かない子も出てくるでしょう。

「厳しく鍛えられたからこそ、今の自分がある」
「この厳しさに耐えられなければ、社会で生き残れない」

そんな気持ちも抱えながら、指導者の方々は稽古をされていると思うのですが…体罰や言葉で子どもをコントロールする以外にも、心の逞しい子どもを育てる道は、きっとあると思うんです。だってスポーツの世界も、学術的な研究が進んでいるのだから!

部活の廃部

私が住む横浜市のあるエリアでは、剣道部がどんどん廃部になっています。ここ最近で3校ほど廃部の話を聞いています。

神奈川県のある市の中学校には、現在一つも剣道部がないそうです。その市は、私が中学生だった頃はけっこう強い剣道部がいる印象だったので、衝撃です…。でも、剣道部がなくなってしまったからこそ、道場連盟がすごく組織化されて普及に尽力しているそうです。

教員の先生の負担軽減のためかもしれませんが、「放課後に学校で剣道ができる」環境が縮小されていくことは、じわじわと競技人口減少に拍車をかけていくような気がしてなりません。

また、そういった背景から、剣道をやりたくとも

  • 稽古場所がない
  • 稽古仲間がいない

といった悩みを抱える中学生もいるようです。

どういった打ち手が考えられるのか

上記の課題を踏まえた上で、どのような打ち手があるのかを記載します。私のオリジナルの考えではなく、取材を通してこれまでお話を聞いてきた先生方のお考えをまとめたものです。

SNSや動画コンテンツの活用

ひと昔前までは、ブログやFacebookでの情報発信が主流とされてきましたが、世代が変われば利用するSNSも変わります。最近の肌感としてはやはり、InstagramとYouTubeをうまく活用している道場が会員獲得に成功しているそうです。

ある道場では、SNSからの問い合わせが多く新規入会を断ることもあるそうです。Instagramを見るのは、子どもの親世代。小学生世代はYouTubeではないでしょうか。TikTokは高校生から20代あたりがコアユーザーな印象です。

  • 道場の特色
  • 活動報告(試合参加、日々の稽古風景、合宿など)
  • 剣道の基礎知識
  • 剣道で学べること

についてまんべんなく発信することで、剣道自体とその道場の特色や魅力を知ってもらうことができるでしょう。

SNS運用をしているのは指導者の先生であるケースもあれば、保護者のお母さん方が担当しているケースも少なくありません。男性・女性でくくりたくはありませんが、日本人の女性の仕事はすごく細やかで丁寧だと感じます。

個人的には、こういったSNS運用が好きな若い学生さんやお母さんにお願いしてみるのがいいのでは?と思います。もちろん、年齢・性別関係なく、SNS運用が好きな人・得意な人が担当するのが一番良いのが前提です。

アナログでの宣伝活動

地域の掲示板などに貼るポスターも、宣伝手段としてはとても優れていると感じます。

ある道場では、新入生が入学するタイミングで、上級生が道場のチラシを配るそうです。上級生のお姉さんに誘われて剣道を始めた、という低学年の子供にも最近出会いました。

また、同じ学校の子どもが多いので不思議に思って聞いたところ、「クラスの友達を誘っている」との回答がありました。「小学生の同級生に剣道どうやって勧誘してるの?!」と驚きました。魅力伝えるの難しくないですか? 痛いし、臭いし、ゲーム性はないし…笑

どうやって誘っているのか聞いたところ、「剣道やりそうな子に声をかけている」と聞いてさらに驚きました。真面目そうな子、習い事をしてなさそうな子に声をかけているそうです。

子どもたちの人間関係がきっかけで始めた場合、なかなか辞めないそうです。大人だってそうですよね。人間関係があるからこそ、続くことってたくさんあります。

体罰やハラスメント対策についての講習会実施

これはまだ前例がないのですが、例えば各県、各市の道場連盟で、講師の方をお招きしてハラスメント研修を行うというアイデアです。

体罰は絶対にいけないことですが、でも、本当に悪気なく、子どものためを思って、躾のために体罰をしている、という先生もいるはずです。その背景には、自分が育ってきた環境、そして実際にこれまで経験してきた「社会の厳しさ」があると思います。社会の厳しさを知っているからこそ、今のうちに厳しくしよう、という愛情であることは理解できます。そうではなくてただ暴力を振るっている人も残念ながら一定数いますが…。

「今の時代はすぐ訴えられるから」で片付けてしまっては、私は真の理解にはならないと思います。「今まではやってよかったけど、今は訴えられるからダメ」ではなく、人の心や多様性に配慮する余裕ができてきた時代だからだと思います。今までも、だめだったんです。傷ついてきた人もたくさんいると思います。

「生涯剣道」という言葉が象徴するように、剣道は老若男女様々な年代が楽しめる素晴らしい武道です。でも、生まれた年が10年違えば、考え方は全く異なります。ここ10年での技術革新でも、環境は大きく変わりました。世代ごとの価値観のギャップを埋めるためには、学びしかないと私は考えています。

どんな講習をするべきか、誰に講師を頼むべきかなど、細かいところまでは今の時点では提示できませんが…。

オープン稽古会

部活がなくなってしまった中学生、道場に同年代が少ない子供のために、自由参加型の稽古会があればいいのに…と感じます。

稽古場で知り合ったつながりで、もしかしたら近場で稽古できる場所が見つかるかもしれませんし、毎日顔を合わせることはできないかもしれないけれど「仲間」が増えるはずです。

情報発信と交流

ある道場の指導者の先生は、自分がどんなことを考えているのか、指導に対する思いを定期的にブログに投稿されています。

これは保護者の方々との価値観のギャップを埋めることを主な目的としているそうですが、最近は他道場の指導者の方に「読んだよ」と声をかけてもらったり、剣道未経験の中学校の剣道部の顧問の先生から「指導についてご意見を聞かせてください」と連絡もくるようです。

普段、改まって真面目な話をする機会ってなかなかありませんが、ブログで発信していれば会話の糸口になるかもしれませんし、誰かの背中を押したり、助けになるかもしれません。けっこう、ブログって読まれていると思います!だから文章を書くことに抵抗がない方は、ブログでもSNSでも、どんどん発信していくのが良いのでは?と個人的には思います。

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ざーっとですが、日本に帰ってきてからの取材を通して見聞きしたことをまとめました。これからもっともっと色々なことを知りたいです。そして、何もできない自分の無力さにがっかりすることばかりだけど、自分にできることに少しずつでもいいから、取り組んでいこうと思います。


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ABOUTこの記事をかいた人

横浜出身、オランダ在住のフリーライター&Webディレクター。ジャンルを問わないSEOライティングが得意です。ディレクションはLP・採用サイト・企業サイト・オウンドメディア、何でもやります。お仕事のご依頼は[marikoアット1design.jp]もしくはTwitterへ。[ID mariko_cabin442] 最近、剣道五段に受かりました。旅行と読書と寝ることと、漫画が好きです。細かいことを気にしない性格です。